短編・連作小説 過去編⑨ はじめての接客

「い、いらっしゃいませ」

朝10時、平日の開店直後なのもあった為なのか、人は少なかった。
私は大きな声で「いらっしゃいませ」と挨拶することに意識を向けていた。

それから少しして、ブランド品の財布を見たいというお客様から声をかけられた。

「かしこまりました。少々お待ちください」

店長が鍵を取り、手袋をする。財布をケースに入れ、ケースの鍵を閉める。
そしてお客様に「こちらへどうぞ」と案内する。

お客様は状態を確認し、しばらく考え込んでいた。

私はまじまじと見るのは失礼だと思い、少し離れたところから様子を見ていた。あとで鍵の開け方を聞かないと、と考えていた。

「この商品2日前に入ったばかりなのでおすすめですよ」

「そうなのね」

お値段もそれなりなのでお客様も悩んでいた。悩んだ末買うと決めたようだった。

「では、お会計はこちらで承りますね。袋はよろしいですか?」

「はい」

店長はパソコンのレジを打ち、お会計を済ませる。

お客様はカード払いだったので、カード端末の操作もしていた。
私はその操作も見ていた。
暗証番号の時だけ、店長から手で合図を受けて後ろを向いた。

「ありがとうございます。領収書はご入用ですか?」

「はい、お願いします。但し書きなどは無しで大丈夫です」

「かしこまりました。」

パソコンを操作し、領収書が出てくる。そこに印を押した。
領収書のやり方も見ていた私。店長がこちらを見た。

私はそれに気づき、

「あ、ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」

「またお待ちしております」と店長。

「はい」と、お客様は満足そうにお帰りになられた。
私は店長に尋ねる。

「領収書も毎回聞くのですか?」

「いや、聞かなくて大丈夫だよ。あの人は常連さんで、いつも『領収書をお願いします』と頼まれるからね。
以前話したでしょ? ここは常連さんが多いって。だから失礼のないよう、きちんと挨拶と気配りを忘れずにね。領収書のやり方は、レジを覚えてからで十分だからね」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

「じゃあ今の流れを繰り返す感じになるよ。午後になるまでは、この流れを見ててね。操作は午後に教えるから」

少しずつ時間が過ぎていく。
最初の緊張は、少しずつ薄れていた。

店内に入ると挨拶をしてくるおばさま。

「この商品は入っていないか」という電話での問い合わせ。

お昼近くになると、買取を希望するお客様もいらっしゃった。

ちょうどその頃、おじいさんが来店され、私が呼ばれた。
店長は接客中で、私はものすごく緊張したが、懐かしいものを見つけて、その昔話をしたかっただけだったようだった。
私は十五分ほど、その話を聞いていた。

「長いこと話を聞いてくれて、ありがとね」

「いえ、いろいろ聞けて楽しかったです。ありがとうございました」

そう言って、おじいさんはお帰りになられた。

買取をしていた店長のもとに戻ると、親指をぐっと立てていた。あの対応で大丈夫だったということだろうか。

「川嶋さん、いい感じだね。そういうのはとても大事だからね。ちなみに、あのおじいさんも常連さんね。暇なときは、話し相手になってあげてね。時々、息子さんと来て、いろいろ買っていってくれる時もあるから」

「そうなんですね」

「ちょっと買取してるから、店内整理よろしくね」

「はい」

それからまた時間が過ぎていき、気づけば十三時近くになっていた。
ドアノブの回る音が聞こえた。

「おはようございます」

「お、杉山くん、おはよう。こちらが今日から働く川嶋さんです」

「初めまして、杉山と申します。自分は社員で、この時間からの出勤が多いです。時間も被ることが多いと思いますので、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。一生懸命頑張りますので」

「川嶋さん、頑張ってたね。もうすぐ十三時だから、お昼休憩の準備していいよ」

「お昼ご飯は?」

「来る前にコンビニで買ってきましたので、大丈夫です」

「了解。休憩室は、レンジも冷蔵庫もあるし、お湯も沸かせるから、今後好きに使っていいよ」

「はい。午前中、教えていただきありがとうございました。午後も頑張ります」

「うん、よろしくね。ちなみに杉山くんは教えるのがすごく上手いから、午後からレジを教わるといいよ。三人になるから、業務的にも大丈夫だからね」

「店長、またいい加減なこと教えてないでしょうね?」

「いやいや、ちゃんと教えてたよ。ね、川嶋さん」

「はい。丁寧に教えていただきました」

「ほらね。じゃあ、お昼いってらっしゃい」

「はい」

こうして私は、休憩室に向かった。
特にトラブルもなく終われたことに少しホッとしていた。

午前中の仕事をしていた店長を思い出す。
あんなにたくさんの事、私に出来るんだろうかと少し心配になった。

休憩室に入り、鞄からパンとおにぎりを取り出して食べる。
急にどっと疲れが出た気がした。
かといって寝るわけにもいかず、私は休憩中のんびり過ごした。

午後も頑張ろう。