
朝になった
日差しが眩しい
ここはどこだろう
木がたくさんある
外だろうか
朝なのはわかるのに自分がわからない
足はある
歩いている
でもどこかふわっとしていて
意識が朦朧としている
そんな中をひたすら歩く
どれだけ歩いただろう
たくさん歩いているのに外は朝のままだ
思ったより歩いていないのだろうか
誰ともすれ違わない
どれだけ歩いただろう
たくさん歩いているのに外は朝のままだ
思ったより歩いていないのだろうか
意識が朦朧とする中で
ふと、自分の足元を見る
歩いているはずなのに音がしない
影も見当たらない
よく見れば、私の足は地面に触れておらず
わずかに浮いていた
そして
爪先はいつの間にか
植物の根のように、歪に変化し始めていた
意思に反して、足が地面へと引きずり下ろされる
根が、土の奥深くへと這い回る
私の意識は途絶えた

・
・
・
ここは、どこだろう
見渡す限りの、木、木、木。
――ああ、そうか
すれ違うはずが、ないのだ
だってみんな、もう動けないのだから
・
・
・
どれくらい固まっていただろうか
記憶は薄れているが時々意識はあった

空が暗く見える
夜になったのか
私の目から見える景色が黒くなったのか
しかし真っ暗ではない
森の中なのはわかる
・
・
・
しばらくして何か眩しくなり目を開く
虹だろうか
七色の虹が見えた

外は暗いままだ
しかし、私はその虹から目が離せなかった
・
・
・
私はその虹をずっと見ていた
どのくらい見ていたのかわからない
しかし虹はいつの間にか消えてしまった
・
・
・
虹は消えたが、空が明るくなっていた
朝だろうか
いや、あの時の朝とは違う気がする
緑の匂いがした気がした
私の目の前にあった葉っぱが目の前で伸びている
それだけ日にちが経ったのだろうか

ふと、足が軽くなった気がした
まだ歩けないが少し動く
しかしそこまでだった
突然頭が痛くなった
そこで私の意識は途切れた
・
・
・
目が覚めたら朝になっていた
足が軽い
軽い?
いや、飛んでいる?
私は自分の体を確かめる
周りに鏡はない
しかし、隣に同じものがいたのがわかり、自分の身軽さも含め、わたしが何なのかを察した
・
・
・
私は蝶になっていた
そしてひとつだけ思い出したことがある
私はかつて、人間だった
車にぶつかり、そのまま意識がなくなった
遠のく意識の中、一度でいい
妻に会いたい思った
蝶になった姿で彷徨い続けた
ひたすら探し続けた
・
・
・
どのくらい経ったのだろう
私の知っている景色がそこにあった
家を見つけた
家の中を窓から覗くと妻がいた
少し老けただろうか
それでも私には妻だと分かった
ずっとそこにいたせいか、
妻が窓を開けた
「あら、黄色い蝶々さん」
「綺麗ねぇ」
妻は指を出し私はそこにとまった

「なぜか落ち着くわ」
妻は私ではなく、遠くを見つめながら言葉を紡いだ
「あの人がいなくなってしまって、もう10年経つの」
「あの人は巻き込まれてしまったの」
「私が買い物を頼まなければ、生きていたかもしれなかった」
「後悔だけが残って、生きていることに疲れてしまったの」
「でも娘が一緒に住みたいと言ってくれて、助けられたわ。孫のかなちゃんが大きくなって来たから、今は離れて暮らしてるけど」
「それでも、今もかなちゃんを連れて、よく遊びに来てくれるのよ」
「幸せだわ。生きてて良かった」
と妻が言った
そう言いつつも少し寂しそうに見えた
でも私はその言葉がとても嬉しかった
良かった
妻に会えて良かった
最後まで幸せに生きてほしい
ありがとう
私のことを覚えていてくれて
本当にありがとう
