短編・連作小説 日記

仕事終わりの電車は、ほどほどに混んでいた。

座席は空いていなかったけれど、立って揺られるのも嫌いではない。

車内のざわめきとアナウンスを聞きながら、バッグからスマホを取り出す。

私はときどき、スマホに日記を書く。

当日忘れたら次の日に。書くことがなくたっていい。

たとえば「今日は一日中家でダラダラしてた」っていう日でも、それはそれで残しておきたい。

1日休むって、実は大事なこと。体に余計な負荷をかけないって、ちゃんとした選択だと思う。

書くと気持ちが少し整理されるし、後で読み返したとき「ああ、そんなことがあったな」って思えるのがいい。

前に、そう教えてくれた人がいた。

「ちゃんとシフト通りに出勤できた、それだけでも十分えらいよ」って。

午前中、おじいさんが来店された。

昔のプラレールを手に取り、小さな声で「これは……」とつぶやいていた。

その目が、どこか遠くを見ているように輝いていたのが印象的だった。

雷鳥に乗って旅行した話。

奥さんと息子さんと一緒に行った大阪の景色。

それらを懐かしむように話してくれた。

「いいものが見つかって良かったですね」と声をかけたら、

「話を聞いてくれてありがとう」と言ってくださった。

あの「ありがとう」は、思っていたよりずっと心に沁みた。

午後は杉山さんと二人での業務だった。

中年の男性客からクレームが入り、店内の空気が少しピリッとした。

私はフォローに回るので精一杯だったけれど、

杉山さんが落ち着いて対応してくれたおかげで、なんとか解決できた。

店内のお客様にもきちんと声をかけられたし、

最後は杉山さんと「お疲れさまでした」と声を掛け合えた。

ああやって落ち着いて前に出られる杉山さんは、本当に頼りになる。

文句も言うけれど、現場を支えているのはやっぱりこの人なんだなと改めて思った。

車窓の外、夜の街が少しずつ見慣れた景色に変わっていく。

今日のことを書き終えて、スマホの送信ボタンをそっと押した。

「今日は無事に一日が終わったな」

心の中でそうつぶやいて、スマホをバッグにしまう。

電車が最寄り駅に到着するアナウンスが流れた。

私はつり革を握り直し、出口に向かって歩き出す。

「今日はスーパーのお弁当でいいかな。」

小さく声に出してみる。

そういえば最近、デザートを買っていない。

たまには甘いものもいいかもしれない。

そんなことを思ったら、少しだけ口元が緩んだ。

あとがき

日記を書くことは、気持ちを整理するのにとても効果的です。

今日を振り返るだけで、見落としていた小さな嬉しさや「自分なりに頑張れたこと」に気づける時があります。

言葉にして残すことで、自分を見つめ直す時間も必要だなと感じる時もあります。
あの時の私はこんな感じだったのかなど。
皆さんももしよければやってみていただけたら嬉しいです。