短編・連作小説 ちょっとした贅沢 

部屋の掃除と洗濯を終えた私は、軽くメイクをしてリュックを背負い、外に出た。

向かうのは、駅前の小さなカフェ。スーパーのすぐ近くにあって、手頃な価格のランチと落ち着いた雰囲気で気に入っているお店だ。

暑いので日傘を差して歩く。

平日だからか、道ゆく人もどこか穏やかでのんびりしている。日差しは強いけれど、空の色は高く澄んでいて、夏の風がほんの少し心地よかった。

カフェの扉を開けると、ひんやりした空気と、コーヒーの香ばしい香りに包まれた。

ここのカフェはコーヒーにこだわりのあるお店。

「いらっしゃいませ」

笑顔で迎えてくれるスタッフに会釈し、空いていた窓際の席へ。店内は静かで、奥の席では主婦らしき女性が二人、話をしていた。

「来週子供が期末テストなのに全然勉強しなくて」
「うちも似たようなものよ、遊んでばっかり」
そんな会話が、少しだけ耳に入ってくる。

私はランチメニューの中から、いつもの日替わりセットを頼んだ。

10分ほどして、「お待たせしました」と料理が運ばれてきた。
鶏むね肉のソテーに、ほんのりバジルの香るトマトソースがかかっている。
添えられたパンはカリッと焼かれていて、オリーブオイルがほんの少し染み込んでいた。

「おいしそう」
やっぱりこれで1200円は安いな。

淡白なはずの鶏肉がふっくらと柔らかくて、トマトの酸味とよく合っている。
付け合わせのサラダもシャキシャキで、ドレッシングが甘すぎずちょうどいい。
普段は作らない味だからこそ、食べるたびに少し特別な気分になる。

高級料理じゃなくても、いつもよりちょっと贅沢なランチ。
こういう味付け、私じゃ出来ないからな。

食後のアイスコーヒーを飲みながら、私はスマホを取り出した。
SNSでもニュースでもなく、アプリで雑誌を読む。
ちょっとした日帰り旅行、散歩特集とか、暮らしでのおすすめ品紹介など。
「ここ綺麗だな」「これ美味しそう」なんて思いながら、指をすべらせてページをめくる。

窓の外をぼんやり見れば、スーツ姿の男性が足早に駅へ向かっていたり、近くの保育園に子どもを迎えに行くらしき母親が手を引いて歩いていたり。

ふと「もし私にも子どもがいたら、私の生活も変わってたのかな」と、自然と結婚のことを思い浮かべてしまう。

コーヒーを飲み終わって、私はゆっくりと席を立った。
レジで会計を済ませながら、店員さんが
「またお待ちしております」
と声をかけてくれる。

「ご馳走様でした。美味しかったです。また来ます。」

そう返して、私はスーパーへ向かった。

今日は特に暑いから冷たい料理もいいかも。
そんなことを考えながら、私は次の目的地へ向かった。

あとがき

今回は
「休日にひとりでカフェに行く」
ただそれだけの出来事なのに、ちょっと贅沢をしたような気持ちになれることがあります。

普段の職場で食べる昼食よりも、少しお値段が高くて、のんびり味わえる時間。

疲れている時、家から出たくないなと思うこともあるけれど、出かけてみれば意外と気分が変わるかもしれません。
そんなきっかけになればと思って書いたお話でした。