スーパーで買い物を終えて外に出ると、昼下がりの強い日差しが肌をじりじりと照らしていた。
エコバッグと保冷バッグの中には、天ぷら、納豆、チルド商品、冷凍食品などを詰め込んでいる。
「冷凍物は早く持って帰らないと」
お米とか重いものはネットで頼もう。
そんなことを考えながら歩いていると、声をかけられた。
「すみません、市役所を探しているのですが場所わかりますか?」
振り返ると、帽子を被って杖をついた小柄なお婆さんが、立ってこちらを伺っていた。
少し不安そうな表情をしている。
「市役所なら、ここをまっすぐ歩いて信号を渡って、それから二つ目の角を右に入ると郵便局があってその少し先が市役所です。」
そう答えると、お婆さんの表情が少し明るくなった気がした。
「見つからなくて困っていたの。とても助かったわ。ありがとうね。」
歩き出そうとするお婆さんに私は一声かける。
「今日は特に暑いのでお気をつけて。」
お婆さんは振り返り、にっこり笑った。
「あなたもね。」
たったそれだけのやりとりなのに、胸の奥が少しあたたかくなる。
昔の私なら、知っていても「すみませんわからなくて。」とごまかしていたかもしれない。
説明するのが苦手だったし、「お気をつけて」なんて自然に言葉を添える余裕もなかった。
今の職場で人と接する機会が増えたから、きっと少しだけ変われたのだと思う。
派遣で働いていたデータ入力の仕事に比べたら、今の時給は少し下がっている。
アルバイトだし、あまり贅沢はできない。
でも、前みたいに追い詰められる事は減ったし、人見知りも改善された気がする。
生活もなんとかできているし、きっと大丈夫。
あとがき
ちょっとした声かけや挨拶で、気持ちがふっと軽くなることがあります。
普段の生活の中で出会う小さな交流は、ほんの一瞬でも記憶に残るものですね。
昔だったら…と考えてしまう時もあるけど、
今の川嶋さんなら、これからも少しずつ変わっていけていけそうな気がします。