そして花火大会当日。
閉店作業を終えたタイミングで、店長が手を叩いた。
「よし!せっかくだから、みんなで屋上から花火を見よう!」
「屋上ですか?」杉山さんが眉をひそめる。
「見えるかもしれないだろ?」
店長が少し自信ありげに笑う。
「……かも?」思わずツッコミを入れる。
「見たことないですけど、方向的にはいけそうじゃない?」
「見えなかったらどうするんですか」
「じゃあその時は、ご飯会だな!」
「えぇ……」私たちはそろって苦笑した。
「とりあえず方角くらいは調べますよ」杉山さんがスマホを取り出す。
「お、杉山くん行く気満々?」
「違います。むしろそこまで考えてから誘ってくださいよ」
「大丈夫そうだな。あとは見えないと何とも言えないけどな」
店長の言葉に、半ばあきれながらもついていくことにした。
屋上に上がる前、水谷さんが「今日は用事があって」と残念そうに帰っていったが、
「夕方にまた寄るね」と言って、お菓子を差し入れしてくれた。
屋上に出てみると、ひんやりとした夜風が吹き抜けた。
「まあ、わかってたけど……あんまり綺麗じゃないな」店長が苦笑する。
「一応これでも、昨日ちょっと掃除したんだぞ」
「普段からやらないからですよ、店長」杉山さんがすかさず突っ込む。
「まあ、屋上なんて滅多に用事ないからなぁ」
金属の手すり越しに、街の明かりが遠くまで広がって見えた。
腰を下ろして、みんなで持ち寄ったおにぎりやコンビニのサラダを広げる。
「こういうのも、まあいいじゃないですか」私は口にした。
「確かに」杉山さんもうなずく。
「まだ時間あるし」と、中村さんはスマホを取り出してアプリを始めた。
「まあ勤務時間外だからな」杉山さんが苦笑する。
やがて「ドン」と腹に響く音がして、夜空に光が弾けた。
屋上から見えるのは、建物の向こうに上がる花火の半分だけ。
でも、高く打ち上がった大輪の花は、思った以上に綺麗だった。
「小さいけど……来年も、ここでいいかもな」
店長のその言葉に、みんな少し笑ってうなずいた。
夏の夜風に揺られながら、半分だけの花火を、それでも十分に楽しんでいた。
あとがき
花火大会は夏の風物詩ですが、人によっては楽しみでもあり、少し構えてしまうイベントでもありますよね。
子どもの頃はただ「きれい!」と純粋に楽しめたけれど、大人になると帰りの混雑や体力のことを考えてしまう。
それでも、誰かと一緒に「半分だけでもきれいだね」と笑い合える時間があるなら、
それだけで、十分な夏の思い出になるのかもしれません。