朝、いつものようにテレビをつけたまま朝食をとっていた。
天気予報の後、地域の話題を紹介するコーナーが始まる。
画面には色とりどりの秋バラが映り、アナウンサーが「今週末あたりがちょうど見頃です」と笑顔で伝えていた。
「きれいだな」
思わず声に出す。
夏の花ほど強く主張しないのに、凛とした美しさがある。
休日に出かける予定はなかったけれど、なんとなく気になって、
番組が終わってからネットで検索してみた。
「秋 バラ園 東京」
写真をいくつか眺めて、アクセスを確認する。
「電車で1時間くらいのところがある……行けそうだな」
天気予報を見ると、次の休みは晴れ。
その瞬間、自然と決めていた。
「次の休み、行ってみよう!」
そして休日。
朝から青空が広がっていた。
風は少しひんやりしているけれど、日差しはやわらかく、ちょうどいい気温だ。
夕方から寒くなるかもしれないと、上着をリュックにしまって持ってきていた。
最寄り駅から乗り換え、バスに乗って1時間ほどで目的の庭園に着く。
駅から少し歩くと、正門の前に「秋バラフェア開催中」の看板が出ていた。
チケットを買って入ると、ふわっと甘い香りが風に乗って漂ってくる。
「わぁ……」
思わず声がこぼれた。
園内には、赤やオレンジ、淡いピンクや黄色のバラが整然と並んで咲いていた。
真夏の眩しい光の中で見る花とは違って、
秋の光は柔らかく、どの花も穏やかに息づいているようだった。
通路を歩きながら、名前のプレートを眺める。
「ピース」「ブルームーン」「ローズ・オブ・ホープ」……
どれも少し詩的な名前で、名札を読むだけでも楽しい。
写真を撮る人、スケッチブックを広げる人、
手をつないで歩くカップル。
平日ということもあって、人は多くない。
それでも、みんなそれぞれのペースで花を楽しんでいた。
奥のほうに進むと、湖が見える広場に出た。
ベンチの周りでは、ひとりでお弁当を広げている人の姿もちらほら。
静かに音楽を聴いている人、本を読んでいる人。
みんな、思い思いにこの時間を過ごしている。
私も木陰のベンチを見つけて腰を下ろし、お弁当を取り出した。
「落ち着くな」
少し風が吹いて、湖の水面がきらきらと光る。
遠くで鳥の声がして、バラの香りがかすかに混ざった。
しばらく湖を眺めていた。
風が頬にあたるたびに、夏の名残を少しずつ手放していくような気がする。
「いつの間にか冬になってそうだな」
今年の夏は、屋上で花火を見た。
派手なイベントではなかったけれど、あの夜の風と笑い声を思い出すと、
不思議と胸の奥が温かくなる。
季節は、いつの間にか次へ進んでいる。
誰かと一緒でも、ひとりでも、ちゃんと時間は積み重なっていく。
帰り道、売店で小さなバラの栞を買った。
「部屋に飾ろうかな」
薔薇や庭園の写真もたくさん撮った。
今日見た景色の余韻は、しばらく心の中に残っていそうだ。
来る時に気になっていたカフェに寄って、ランチセットを注文する。
ハヤシライスとサラダのセット。
お花が添えられていて、聞けばこの時期限定のメニューらしい。
とても美味しかった。
夕方の電車に揺られながら、
少し疲れた身体の中に、静かな充実感があった。
今日という一日が特別な出来事ではなくても、
こんなふうに行ってよかったと思える時間を、これからも重ねていけたらいいな。
あとがき
秋バラは、夏の花のような勢いはないけれど、
柔らかい光の中で咲くその姿は、どこか落ち着いた強さを感じさせます。
川嶋さんにとっても、ひとりで過ごす休日が寂しさではなく、心を満たすものになっていたらいいなと思いました。
私は期間限定と言われると、どうしてもそのメニューを頼んでみたくなってしまいます。
この様なランチに出会えるのも、お出かけのいいところかもしれません。