短編・連作小説 元旦 後編

新年か。結局あのまま寝ちゃったのか。

そう心の中で呟きながら、目を覚ました。目覚ましよりも早く目が覚めた。支度をしつつ、九時が近いのを確認して居間へ向かった。

テーブルには、お雑煮とおせち料理が並んでいた。
お重ではなく、スーパーで買ったものをそれぞれお皿に取り分けてある。
少しだけサラダも添えられていて、いかにも母らしい組み合わせだと思う。

「おはよう」

「あ、夏希、おはよう。時間通りね。ご飯できてるわよ」

「うん、ありがとう。あけましておめでとう」

「おめでとう」と父が言う。

「あけましておめでとう。今年もよろしくね。さあ、朝ご飯にしましょう」

三人で「いただきます」と言って、静かに食べ始める。

テレビでは新年の特番が流れていて、にぎやかな音だけが部屋に満ちている。誰かが何かを言えば返すけれど、会話は多くない。
それでも、この空気に居心地の悪さは感じなかった。

箸を取って、お雑煮を一口すする。
出汁の味が口に広がった。特別な材料を使っているわけではないお雑煮。
懐かしい、という言葉が一番近い気がした。

スーパーのおせちはやはり甘かった。
この時期のかまぼこも弾力があり美味しい。

食べ終えたあと、自然と立ち上がってお皿を洗う。
実家に帰ると、こういう役回りはいつも私だ。水の音を聞きながら、ぼんやりと今日の予定を考える。やっぱりあそこに行こうかな。

「夏希、今日はどうするの?」

「お昼前には、出ようかと思って。お昼も今食べたから大丈夫」

そう伝えると、母は「そう」とだけ言って頷いた。

「まあ仕事もあるものね。またいつでも来てね」

「うん、また来るよ」

引き止められもしないし、急かされもしない距離感。
それまでは家族で雑談をして過ごした。

コートを着て、両親に挨拶をし、家を出る。
荷物はリュックのみなので軽かった。

駅までは少し遠回りになるけれど、途中に小さな神社がある。せっかくだから、今年はそこで初詣をしようと思っていた。

住宅街の中にあるその神社は、元旦にもかかわらず思ったよりも人が少なかった。
並ばずに参拝できる程度の混み具合で、ほっとする。賽銭を入れ、手を合わせる。

昨年のことを振り返り、今年の抱負も伝えた。
参拝を終え、駅へ向かう。

電車に揺られながら、LINEの挨拶が来ていた数人に返事を返す。
職場だと、水谷さんから可愛いスタンプで挨拶が送られてきていた。
そして友人からも数人、久しく会えていない人もいた。

少しずつ自分の生活に戻っていくのを感じる。
駅からいつもの道を歩く。外は夕方でも暗くなっていた。
途中でスーパーに寄り、必要なものだけを買った。

自宅に着き、電気をつける。
誰もいない部屋は静かで、実家とはまた違う落ち着きがあった。お風呂を沸かし、その間に買ってきたお弁当を広げる。

一口食べて、ようやく肩の力が抜けた気がした。

たった一泊の帰省。どちらも自分の居場所だけれど、今はここが落ち着くのかもしれない。

そんなことを考えた元旦だった。

あとがき

あけましておめでとうございます。
今回年末との事でリアルタイムで3編に分けて投稿してみました。
川嶋さんにとって、2026年が良い一年になりますように。