短編・連作小説 仕事始め

のんびりした正月を終えて、仕事始めの朝。

私はいつもより少し早い電車に乗っていた。

今日は一月三日。車内はまだ空いている。休日休みの人なら、おそらく四日からの出勤が多いはずだ。スーツ姿の人もいるけれど、どこかゆっくりした空気が流れていた。

店に着くと、すでにシャッターが開いていた。

「早い。誰だろう」

バックヤードに入ると、杉山さんが先に来ていた。

「おはようございます、川嶋さん。早いですね」

「あ、杉山さん。おはようございます。杉山さんのほうが早いですが」

「まあ、普段は遅番なので、こういう時くらいはね」

今日は時短営業だから、杉山さんも朝から出勤している。

少し遅れて、店長も入ってきた。

「おはよう、川嶋さん、杉山くん。久しぶりの朝出勤なのに早いね。さすがだね」

「当然です。久しぶりだからこそ、通勤時間を考えて早めに出るものですよ」

「眠いんじゃない?」

「まあ、それはそうですけどね」

私はその会話に、少しだけ笑った。

確かに杉山さんは普段遅番が多い。朝から顔を合わせるのは珍しい。

「じゃあ、三人揃ったし、今日は朝礼やろうか」

「はい」

普段はパソコン上で引き継ぎを確認するだけで、きちんとした朝礼をすることはほとんどない。

「今日が新年最初の営業日なので、新年の挨拶をします」

店長が少し照れたように言う。

「えーと……川嶋さん、杉山くん。本年もよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

三人で頭を下げる。

形式ばった感じがして、少しだけ新鮮だった。

「今日は時短営業です。お客さんの入りは、例年を考えるとそこまで多くないと思う。でも送り買取が大量に来ているから、今日はそっちをメインでお願いしたいと思ってます」

「川嶋さんには店頭業務をメインでお願いして、俺が買取をひたすら進めます」

「はい、わかりました」

「それと、俺はこのあと倉庫で打ち合わせがあって、午後から出張に行く。今日はほぼ二人で店を回してもらうことになります」

「特に問題ないので、大丈夫です」

「それはそれで、なんか俺いらないみたいで嫌だけど」

「そんなことないですよ」

「川嶋さん、新年早々出勤してもらってごめんね

「いえ、大丈夫です。特に予定もなかったので」

正月だから特別、という感覚はあまりない。

アルバイトの私に気を遣ってくれたのだろう。でも実際は、少しだけボーナスもいただいている。出勤日なら働く。それだけだ。

「ありがとう。じゃあ二人とも、今年もよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

そう言って、店長は倉庫の方へ向かった。

開店準備をしながら、杉山さんがぽつりと聞いてきた。

「川嶋さん、お正月はどうでした?」

「一泊だけ、実家に帰ってました」

「ちゃんと帰省してるんですね」

「近いので。杉山さんは?」

「僕は友人と飲み会でした。実家は遠いので、落ち着いた頃に有給を使って行く予定です」

「いいですね。この時期は交通費もかかりますし」

「長期で実家帰る人多いですからね。お酒は飲みすぎないようには気をつけてますよ」

そうして、私たちは開店準備を進めた。
今朝は、新年らしい青空だった。

「じゃあ、開店しますね」

「はい、お願いします」

午前中ということもあり、来店するお客さんは少なめだった。
福袋を買っていく人、買取の電話相談、孫を連れたお年寄り。
いつもと同じようで、少しだけ違う店内。

休憩を取りながら業務を進め、気がつくと店内の時計は閉店時間間近を指していた。時間が過ぎるのは早い。

「とりあえず、無事終わりそうですね」

「そうですね」

「福袋も割と好評でしたね」

「中古品の詰め合わせなので、少し心配でしたけど」

「でも中身は見られますし、返品不可とも伝えてますから」

「そうですね」

店長は出張先から直帰するため、閉店作業は私たち二人で行った。

閉店作業をするのは、久しぶりだった。

ある程度終わると、杉山さんが「ここはやりますので、先に上がって大丈夫ですよ」と言ってくれた。

「本日もお疲れさまでした。改めまして、今年もよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

新年の始まり。仕事始めは、無事に終わった。
今年も、私に出来ることを一つずつ頑張っていこう。


あとがき

仕事始め。
正月の空気がまだ残っている中で、いつもの場所に戻る感覚。

いつもと違う空気の中、仕事をいつも通りにこなすこと。

それができるようになったこと自体が、実は少しずつ前に進んでいる証なのかもしれません。