今日は休日。
家事も一通り終わり、特に予定もなかったので、少し時間は経ってしまったが、以前コウタくんのお母さんにいただいたショップカードのカフェに行ってみることにした。
カードのQRコードから見た写真がとても美味しそうで、ずっと気になっていたというのもある。
最寄駅から電車で十五分ほど。そこから少し歩いた住宅地の先に、そのカフェはあった。
隠れ家カフェみたいだと思った。
ウッド基調の外観で、落ち着いた雰囲気のお店。写真で見た通りだった。
ドアを開けると、すぐに声がかかる。
「いらっしゃいませ。あら、川嶋さん!?」
店内から、以前会ったコウタくんのお母さんがこちらを見て驚いていた。
「こんにちは。覚えていてくださったんですね」
「もちろんです。以前は本当にありがとうございました。こちらへどうぞ」
「はい、失礼します」
席に案内されながら、メニューを渡される。
「今日の日替わりランチはドリアです。他はこちらに載っていますので、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
どれも美味しそうなメニューの写真で少し迷ったけれど、結局日替わりにした。
「すみません、日替わりでお願いします。ドリンクはダージリンのホットで」
「かしこまりました。ドリンクは食前と食後、どちらになさいますか?」
「食前で」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
待っている間、ホール業務の合間に、お母さんが少しだけ話しかけてくれた。
「夫がシェフでして。良平は夫の弟なんです。休日に時々、お手伝いに来てくれるんですよ」
そう言われて、あの日の公園のことを思い出す。
「コウタとも、そのときによく遊んでくれていて。あの日も、公園で遊ぶ予定だったんです」
「本当に……川嶋さんにはお世話になりました」
「いえいえ、私は大したことはしていませんので」
そう答えながら、少しだけ視線を落とす。
だいぶ慣れてきたとはいえ、改めて感謝されると、まだ少しむず痒い。
お母さんの名前は美幸さんというらしい。
このカフェは三年前から始めたことや、おすすめのメニューの話など、いろいろと教えてくれた。
しばらくして、
「お待たせしました」
テーブルに置かれたドリアは、見た目だけでも食欲をそそる。
かぼちゃや人参が使われていて、彩りもきれいだった。
バケットも2枚添えられている。
「わあ……美味しそう」
思わずスマホで写真を撮った。
「ありがとうございます。うち、デザートもおすすめなんです。自家製プリンなんですけど、アレルギーなどなければ、食後にいかがですか?」
調べた時の写真に載っていたものだと思った。
「……はい、いただきます」
ドリアは熱々で、冷ましながら食べた。チーズの伸びが良く、でもチーズのしつこさもない、とても食べやすい味だった。鶏肉も柔らかくて美味しい。
食後にいただいたプリンは、昔ながらの少し硬めのプリンで、丁寧に作られているのが素人目にもわかった。
フルーツの盛り付けも可愛らしく、こちらも写真を撮る。
満足してお会計に向かうと、お母さんが首を横に振った。
「今日は、お代はいいですよ。お礼ですし」
「え、それはさすがに……」
申し訳なくて、ランチ代だけは支払った。
その代わりにと、小さな袋に入ったクッキーを手渡される。
「すみません、いろいろいただいてしまって」
「いえいえ。よかったら、また来てください。きっと、コウタや良平も会いたいと思うので」
「……はい。ありがとうございます」
その後、美幸さんが少し迷ったようにして、話しかけてきた。
「もしご迷惑でなければ、またお店に伺ってもよろしいですか?コウタも喜んでいたので」
「……はい、ぜひ。うちのお店は常連さんも多いので」
「ありがとうございます」
美幸さんはとても嬉しそうにしていた。
それを見て私も少し笑えた気がした。
外に出て、来た道を歩く。
他のメニューも美味しそうだったし、また来ようかな。
お給料日後とか。
また来たいと思える場所が一つ増えた気がした。
あとがき
一つの出来事から、また別のつながりが生まれることもあるんだなと思い、このお話を書きました。
川嶋さんも今の職場で働き、少しずつ人と話せるようになったからこそ、「また来たい」と思えたり、お母さんと席で会話を交わせたのだと思います。
無理のない距離で、ゆっくりと広がっていく日常。
そんな一日も、川嶋さんらしい時間なのかもしれません。
※コウタくんは、「迷子の男の子」、「男の子との再会」の回に登場しています

