1月も、もうすぐ終わる。
年末年始の忙しさが、ようやく落ち着いてきた気がする。
お客様が帰り、店内が静かになった頃、ふとそんなことを考えていた時だった。
「いやあ、やっと落ち着いたよ。今年の1月もすごかったねえ」
とカウンターの奥で、店長が大きく伸びをした。
「本当ですね。買取の査定、1月はすごかったですもんね」
「1月の買取の多さは、主に『福袋』のお客様だからね。川嶋さんも多めに出勤してくれてありがとね」
「いえいえ、少しでもお役に立てたのなら嬉しいです」
「大助かりだよー」
店長がしみじみと言う。 そう、リサイクルショップの1月は「売る」月なのだ。
お正月、ワクワクして買った福袋。
でも、開けてみたら「自分には合わなかった」「サイズが違った」「持っているものと被った」……そんなアイテムたちが、ここへ持ち込まれる。
新品同様のタオル、キャラクターのマグカップ、着ていないアウター。
それらの買取作業がようやく落ち着いた。
あとは改めて、高価な品に関しては価格を見直し、製品化していく。
「福袋って、買うときは夢があるんですけどね」
「開けた後、現実に引き戻されるからね。まあ、おかげでうちは商品が潤うわけだけど」
店長が笑ったとき、裏の扉がガチャリと開いた。
「吉田さん、お疲れ様です〜。
一応、倉庫の買取の方も落ち着きましたよ」
現れたのは、ダウンベストを着込み、軍手をした大柄な女性だった。
「あ、橘さん。お疲れ様です」
「川嶋さんお疲れ様〜」
橘さんは、柔らかな笑顔でこちらに歩み寄ってきた。
橘さんは以前、このお店で働いていたベテランスタッフで、現在は産休明け。
まだお子さんが小さいので、この繁忙期だけ、買取作業メインのアルバイトとして来てくれていたのだ。
私がこの店に入ったばかりの頃。
右も左もわからず困っていた私に、レジの打ち方からお客様対応まで、優しく教えてくれたのが橘さんだった。
当時の女性スタッフが橘さんだけだったこともあり、とても心強かったのを覚えている。
「倉庫の方、大変でしたよね」
「私はいろんな商品が見られて楽しいけどね。たまに変なのもあるけど。それにしても……」
橘さんが私の方を見た。
「川嶋さん、本当に頼もしくなったわねぇ」
「えっ……そうですか?」
「そうよ。入ったばかりの頃は、お客様に声をかけるのもドキドキしてたじゃない? 今じゃお店の顔って感じがするわ。さっきも休憩時間にこっちを通ったから、実は遠くから見てたのよ」
橘さんの言葉に、少しだけ顔が熱くなる。 自分では、そんなに変われているのかよくわからなかった。
でも、私の「一番ダメだった頃」を知っている橘さんにそう言われると、なんだか認めてもらえたような気がして、素直に嬉しかった。
「その節は、本当にお世話になりました。橘さんがいてくれたから、私、続けられた気がします」
「ふふ、私は何もしてないわよ。川嶋さんが頑張ったからよ。これからも頑張ってね」
「はい! ありがとうございます」
その後、橘さんは「じゃあ吉田さん、これ伝票ね」と書類を置きねといい、颯爽と戻っていった。
その背中は、昔と変わらず大きくて、とても頼もしかった。
橘さんを見送ったあと、自動ドアが開いた。
入ってきたのは、大学生くらいの男性のお客様だ。店内を少し見回していた彼は、やがて棚から一つの箱を手に取り、「お……!」と小さく声を上げた。
彼がレジに持ってきたのは、あるアニメキャラクターのフィギュア。
数日前、買取したものだった。
「このフィギュア、欲しかったんですよ」
会計の時、男性は本当に嬉しそうにそう言った。
私は商品を丁寧に袋に詰めながら答える。
「そうなのですね。見つかってよかったですね」
「はい、ありがとうございます」
男性は袋を抱えて店を出て行った。
誰かにとっては「不要だったもの」が、ここでは誰かの「ずっと探していたもの」になる。
買取の作業をしていると、今でも思う。
誰かにとっていらないものでも、誰かにとっては欲しかったものなのだ、と。
「さて、と」 私はレジ周りを整える。
橘さんの言葉と、お客様の笑顔。
ふたつの温かさが、1月の終わりの冷たい空気を、やさしく溶かしてくれた気がした。
あとがき
1月は「行く」、2月は「逃げる」、3月は「去る」と言いますが、本当にあっという間に1月が終わろうとしています。
お店にとっては福袋の買取で忙しい時期ですが、それは「モノが循環している」証拠でもあります。
誰かの「いらない」が、誰かの「欲しい」に変わる瞬間。リサイクルショップならではの光景かもしれません。
そして今回は、川嶋さんの恩人・橘さんが登場しました。
昔を知る人に褒められるのは、なんだか特別な嬉しさがありますよね。