朝でも暖かくなってきた季節。
今日は時折、乾いた風が吹き抜け、街路樹を小さく揺らしている。
自動ドアが開くたびに、花粉が入り込んでくるような、嫌な落ち着かなさがあった。
「……なんだか今日は、目がゴロゴロするな」
商品棚で在庫リストをチェックしながら、私はそっと目頭を押さえた。
今朝の天気予報で『花粉が非常に多い』と言っていたのは、本当だったらしい。
私もいよいよ「花粉症デビュー」かもしれない。
あと少しで仕事が終わる時間だが、自宅までの道のりを考えると、少しだけ憂鬱な気分になった。
ちょうどその時、裏のドアが開いた。遅番の中村くんが出勤してきたのだ。
「お疲れ、様です……」
けれど、いつもの「お疲れ様です!」という元気な声は聞こえてこない。
よく見れば、彼の目はうっすらと赤い。
マスクをしていても、鼻の頭まで赤くなっているのが分かった。
「中村くん、大丈夫? 具合悪そうだけど……」
引き継ぎのために近寄ると、彼は力なく首を振った。
「すみません……花粉症なんです。今日は風が強いから、朝からもうしんどくて。外に出た瞬間に終わりました……」
鼻声でそう話す中村くん。聞けば、毎年のことながら今日は特にひどいのだという。
「私も今日は少し目がゴロゴロするけど、そこまでではなくて。大変だね……」
そんな私たちの会話を聞きつけてか、棚の奥から吉田店長が顔を出した。 店長は中村くんの様子をじっと見ると、茶化すこともなく、真剣な面持ちで声をかけた。
「中村、大丈夫か。今日もかなり酷そうだな」
「あ、店長……。今日もすみません」
「謝ることじゃないさ。もし仕事中にあまりに辛くなったら、遠慮せずに言ってくれよ。裏で少し休むなり、早めに上がるなり調整するからな。無理してミスしてもお互い困るしな」
店長はそう言って、中村くんの肩を軽く叩いた。
普段はおちゃらけているけれど、こういう時はいつもスタッフを真っ先に心配してくれる。
「……ありがとうございます。店長、優しいっすね」
「当たり前だろ。……まあ、俺自身は花粉症になったことがないから、その辛さを本当の意味で分かってやれないのが心苦しいんだけどな」
店長のその言葉に、中村くんが鼻をすすりながら少しだけ笑った。
「店長って、花粉症どころか風邪も引くイメージがあまりないですね。いい意味で、常に無敵なイメージで」
「確かに。私が入ってからも、店長が体調を崩しているのは見たことがないかも」
私がそう付け加えると、店長は「おいおい、俺だって人間だぞ」と、心外そうに眉を寄せた。
「風邪くらい引くさ。……最後に引いたの、いつだったかな。三、四年前か、いや、五年前だったか?」
店長が腕を組んで考え込む姿を見て、私と中村くんは思わず顔を見合わせた。
「私がまだいなかった頃ですね」
「ほら、やっぱりそうじゃないですか」
「いや……頻度が、まあ、極端に少ないだけだ」
店長のカラッとした弁解に、店内の空気が少しだけ軽くなる。
私はその時、ふと思い出したことを話した。
「中村くん、ルイボスティーって飲んだことある?」
「名前は聞いたことありますけど、飲んだことないです。普段紅茶飲まないんで」
「花粉症の症状を和らげる効果があるって聞いたことがあるの。一度じゃ効果は出ないと思うけど、味見くらいはできると思うから。もし良ければ今度持ってくるね」
「ありがとうございます、川嶋さん……めっちゃ助かります」
と、少しだけ表情を和らげた。
「じゃあ、今度持ってくるね。お疲れ様でした」
こうして挨拶を済ませた私は、店を後にした。
外はまだ春の風が吹いている。
私は少しだけゴロゴロする目を瞬かせながら、自宅までの道のりをゆっくりと歩き出した。
あとがき
花粉症の辛い季節、皆様はどのように対策されていますか?
今回は対策の一つとしてルイボスティーのお話を書きました。
執筆にあたって調べてみたところ、花粉症には以下のような飲み物が良いそうです。
べにふうき緑茶、甜茶、ルイボスティーなど
(ポリフェノールが豊富で、アレルギー反応を抑える効果が期待できるそうです)
カフェインや糖分の摂りすぎには注意しつつ、温かい飲み物を選んで体を温めることが症状緩和に繋がるとのことでした。
辛い時期ではありますが、温かい飲み物で少しでもホッとできる時間を持っていただけたら嬉しいです。