短編・連作小説 過去編12 自分に自信を持つこと 『川嶋夏希』

二日目。
昨日店長から聞いていた、橘さんという女性と一緒にフロアに入った。
橘さんは背が高く、どこか堂々とした佇まいの人で、私は思わず背筋が伸びた。
上手く話せるだろうか。
昨日とは違う緊張が胸に広がる。

「初めまして、川嶋夏希です。販売は初めてで、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」

「川嶋さん、よろしくね。店長からいろいろ聞いてるから大丈夫よ。ここ、女性少ないから仲良くしましょう」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」

「はーい。あと、そこまで固くならなくて大丈夫よ。もっとフランクに行きましょう」

「はい、よろしくお願いします」

まだ硬いなぁと思われたのか、橘さんは少し笑った。

開店前に、橘さんは自己紹介をしてくれた。
橘さんは、昔から物に興味があって、買取業務はここでのアルバイトから始めたこと。
以前は別店舗だったこと。
結婚を機に引っ越してきて、ここは一年くらいかな、と話していた。
そして、三ヶ月後には産休に入るからいなくなってしまうこと。
その事実に、私は凄いなぁと思った。
私とそこまで変わらない年齢なのに、と少し寂しさも感じた。

でも、いざお店がオープンしたらそんなことを考える暇もなかった。

昨日まとめたメモを見せたら、橘さんは驚いていた。
こんなに綺麗にまとめたの!と。

「杉山くん、初日から教えすぎよ。午後にでも文句を言ってやろうかしら」

橘さんは少し冗談混じりに話していた。

私は少しだけ苦笑いしてしまった。
すると橘さんは

「川嶋さんは笑ってる方がいいね」

と不意にそう言われて、私は返答に少し困ってしまった。

今日もレジ操作と声出し、お客様対応をする。 買取も来ていて、橘さんがテキパキとこなしていた。

「買取ってね、正解がないのよ。相場も変わるし、ベテランだからと侮っていると置いていかれる世界だから。私は正解のないところが割と好きでね。
まあ時々文句を言われたりもするけど、そこは仕方ないよね。
だから川嶋さんも、これからクレームとかも来ると思うけど、自分の査定を信じるのよ。
自分で自分の査定を疑っちゃったら、お客様だって困っちゃうでしょ。
ここの仕事は自分に自信を持つことが大事よ。
ちょっと失敗しちゃったなと思っても、やってしまったものは仕方ない。
困ったら周りに聞けばいいのよ。ここはベテラン揃いだからね」

「はい、ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしないよう、精一杯頑張ります」

「硬い、硬いよ、川嶋さん! もっと気楽に行こう」

そんなことを話しつつ、業務に戻った。
そして時間が過ぎ午前の休憩時間が近くなった頃、杉山さんが出勤し、私は休憩に入った。