短編・連作小説 五月五日

五月五日。
仕事を終えた私は、職場近くの商店街を歩いていた。

八百屋の店先を通りかかると、バケツに無造作に突き刺された細長い葉っぱが目に入る。

「あ、菖蒲(しょうぶ)……。そういえば、今日は端午の節句か……」

手書きの値札を見て、ようやく今日が端午の節句であることを思い出した。

そんなことを考えながら歩いていると、和菓子屋の店先に揺れる、少し色あせた鯉のぼりが目に入った。
私はそれに誘われるように、のれんをくぐった。

店内は、蒸したてのお餅の甘い香りと、笹の葉の香りがした。

「いらっしゃい。今日は五月五日だからね。
柏餅はこしあんと粒あん、草餅もあるよ」

店主のおばあさんの優しい声。

「もう時間も時間だし、二十円引きするよ」

「ありがとうございます。どれも美味しそうで迷うな」

つい目移りしてしまう。本当は、一つだけでよかったけど、一つは買いづらいな。

「……柏餅の粒あんと、草餅ください」

「はい、ありがとうね」

手際よく紙に包んでくれるおばあさん。

ケーキ屋などもそうだけど、一つでと言えない事が多い。

その帰り道、スーパーにも寄り、お弁当を買った。

自宅に戻り、商店街で一緒に買ったお弁当と、柏餅と草餅をテーブルに並べた。

「買いすぎたかな……食べ過ぎかも」

と独り言が漏れる。

けれど、結局すべて平らげてしまった。

「美味しかった、ご馳走様でした」

連休でもたくさん仕事を頑張った自分へのご褒美ということにしておこうと、自分の中で言い訳をした五月五日だった。

あとがき

二つもいらないだろうと思いつつ、一つは買いづらいということが割とあります。

私はコンビニやスーパーでは一つでも買うけれど、パックや箱に入れてくれるお店だと、どうしても買ってしまう人間です。

皆さんは一つでも気にしませんか?

やっぱりこんな出来事も、人それぞれなのかなと思いました。