短編・連作小説 花火大会前の女子会(前編)

街全体がどこかそわそわと浮き足立つ、花火大会の日の休日。

私が勤めるカフェも、この日ばかりはいつもより早く店を閉めることになっていた。今日の居残り組は店長と杉山さんのはずだ。

せっかくの休日だし、仕事がないのに混雑する花火大会へ出かけるかどうか、実は直前まで迷っていた。
けれど、とあるお誘いを受けたことで、私の何もないはずだった休日は動き出すことになる。

時は少し遡る。

新しいシフト表が出た日、そこに自分の名前がないのを見て、私は花火大会に行くのをわざわざ行くほどでもと迷っていた。
ただ、「もし水谷さんが行くなら、私も行ってみたいかも」と、胸のどこかで淡い期待を抱いていただけだった。

しかしその数日後、水谷さんとシフトが一緒になったとき、なんと彼女のほうからお誘いがあったのだ。
私はそのお誘いが嬉しくて、花火大会を含めたその日の訪れを、ずっと密かに心待ちにしていた。

そして当日、夕方近く。
私は水谷さん、橘さんと無事に合流し、3人でカフェの席に座って女子会をしていた。

「実は私たち、最初はね……」

そんな水谷さんの言葉から始まったのは、二人の出会いのエピソードだった。それから、たわいのない世間話へ、そしていつしか仕事の話へと、会話は心地よく流れていく。

ふと、橘さんが私の目をまっすぐ見て微笑んだ。

「それにしても川嶋さん、本当に成長したよね」

「えっ、そうですか……?」

思いがけない言葉に、私はティーカップを持ったまま動きを止めてしまった。

「本当にそうよ。入ったばかりの頃なんて、ちょっと怖そうなお客様の会計で慌ててたじゃない。それが今じゃ、お店のトラブルも一人で冷静に対処できちゃうんだから」

橘さんが懐かしそうに目を細める。その言葉が気恥ずかしくも、胸の奥をじんわりと満たしていく。

「私が初めて会った時も、まだぎこちなかったですよね〜」
水谷さんもそう言って楽しそうに振り返り、私は少しだけ苦笑いをした。

それから橘さんは嬉しそうに、「見てみて、これうちの子なの」とスマートフォンで写真を見せてくれた。
「可愛いですね〜」などと私たちは写真を覗き込む。

今度は水谷さんが昔の話をしてくれた。

「私だって昔は婚活で本当に苦労したのよ。実は一度、離婚も経験しているしね。だから川嶋さんだって、焦らなくて大丈夫。まだまだこれからよ」

「ほんとよ、川嶋さんには幸せになってほしいよね」と橘さんも頷く。

普段、私は婚活系の話題があまり得意ではない。
どこか品定めされているような、あるいは急かされているような気分になるからだ。けれど、水谷さんと橘さんの言葉は不思議と嫌ではなかった。
おそらく、純粋な優しさが滲んでいたからだと思う。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、橘さんが時計を見て小さく声を上げた。

「そろそろ帰らなきゃ。実家で、一時的に子供を預かってもらっているの」

名残惜しそうに席を立ちながら、橘さんは私たちを振り返った。

「職場では普段、私は会うことないから、今日はすっごく楽しかった! また絶対に3人で話そうね」

「はい、ぜひ!」と私。
「絶対だからね〜」と水谷さんも笑って手を振った。

駅で橘さんを見送った後、水谷さんが私に向き直る。

「じゃあ、川嶋さん。私たちもそろそろ行こうか」

「はい!」

私たちは賑わい始めた街の雑踏へと歩き出した。
向かう先は、店長たちが待つ、あの私たちの職場へ。