開店前の店内。
開店準備を始めていると、扉が開いて水谷さんが入ってきた。
「おはようございます、川嶋さん。これ、みんなでどうぞ」
そう言って紙袋を差し出す。
中には、小さな箱がひとつ。
「徳島に行ってきたので、おみやげです。鳴門金時のおまんじゅう」
「ありがとうございます」
「休憩の時にでも食べてね〜」
そう言い残して、水谷さんはバックヤードへ。
私もレジの確認を終え、店内の照明をつけた。
今日も一日が始まる。
開店後しばらくして、業務がひと段落した頃。
水谷さんがふと思い出したように言った。
「徳島は鳴門金時のお芋が有名みたいでね。現地で焼き芋を食べたの〜」
「へぇ、現地のは違うんですか?」
「私普段は焼き芋食べないから比べられないけど、甘みがあってスイーツみたいで、とても美味しかったわ」
「いいですね!」
「今日のお昼休憩、楽しみです」
「そう言ってもらえると私も嬉しいわぁ」
平日の店内は落ち着いていて、ゆっくりと時間が流れていた。
古い玩具の汚れを拭き取りながら、ふと水谷さんが言う。
「秋といえば、やっぱりお芋ですよね」
「ですね。スーパーにも焼き芋コーナーありますよね」
「私、買ったことなくて」
「そうなんですか。鳴門金時には敵わないですけど、美味しいのでぜひ」
「なら買ってみるわね」
「あとスイートポテトも好きですけど、焼き芋は芋そのままの味がするから特に好きです」
「スイートポテトなら私、昔作りました。子どもが小さかった頃喜んでくれたので」
「そうだったんですね。手作りいいですね」
そんな他愛もない会話をしながら、商品を磨いたり、買取表や伝票を整理したり。
店の外では、少し強めの風がガラスを鳴らしていた。
「今日は風が冷たいですね」
「朝も少し寒かったです。もう秋なんだなって思いました」
「秋の空気って、なんか静かで好きです」
昼が近づいてきた頃、杉山さんが出勤してきた。
「おはようございます」
「おはようございます。水谷さんが徳島のおみやげ、持ってきてくれましたよ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「鳴門金時のおまんじゅうです」
「お芋系ですか。いいですね。昔は焼き芋食べたりしてたけど、最近食べてないですね。休憩の時にいただきます」
「ぜひぜひ〜」
「では私はこれで。お疲れさまでした〜」
水谷さんが手を振って帰っていった。
「スイートポテトも好きですけど、焼き芋は芋そのままの味がするから特に好きです」
と、川嶋さんがさっきの会話を杉山さんにも話すと、
杉山さんは少し笑って言った。
「なんか、川嶋さんっぽいですね」
「どういう意味ですか?」
「甘い話してるとき、いつも楽しそうにしてるので」
「え、そうですかね?」
そういえば、徳島の観光のこと聞けなかったな。
今度聞いてみよう。
お昼になって、おまんじゅうをいただいた。
しっとりした生地の中に、やさしい甘さの芋あん。
お茶と一緒に食べると、ほっとする味だった。
「午後も、がんばろう」
小さくつぶやいて、私は店内のドアノブを回した。
あとがき
秋になると、どうしてもお芋の話題が増えてしまいますね。
甘くてやさしい味は、それだけで心がほっとするような気がします。
川嶋さんにとっても、こうしたちょっとした出来事が
お仕事を頑張れるきっかけになっているのかもしれません。