朝から、どうにも調子が悪い日だった。
目覚ましの音で一度起きたのに、布団の中でうとうとしていたら、気づけばいつもより十五分も遅い。
「やばっ」と声が出た。慌てて顔を洗い、支度を始める。
お弁当を作る時間なんて当然なくて、急いで家を出た。
朝ごはんも、食パンを一枚頬張るだけ。
外に出ると、ひんやりとした空気が頬を刺した。
「もう少し厚着してくれば良かったな」
白い息がふわっと上がる。季節が、確実に冬へ近づいているのを感じた。
駅に着くと、電光掲示板に「電車遅延」の文字。
タイミングが悪い日というのは、なぜか続くものだ。
結局、いつもより十五分遅い電車に乗ることになった。
混み合う車内で揺られながら、「間に合いそうだけど……」と小さくため息をつく。
なんとなく、今日一日が長くなりそうな予感がした。
店長は11時に来る予定。
それまでにできることを進めよう。
シャッターを上げ、照明をつけ、掃除をして、商品を並べ直す。
「こういう日に限って、忙しくなったりするんだよなあ」
そんなことを思いながら手を動かすうちに、少しずつ気持ちも落ち着いていった。
開店してしばらくして、大口の買取のお客様がご来店された。
「査定が終わり次第、ご連絡いたしますね」と伝えて対応を進める。
店長が来る前に、できるだけ進めておこう。
仕分け作業をしながら、ふと考える。
「お昼、どうしようかな……」
お弁当はないし、コンビニだよね。
職場の近くには飲食店が数件あるけれど、どこも量が多くて値段も少し高い。
結局いつも、お弁当か買ってくるかで済ませることが多い。
11時、店長が出勤。
挨拶と引き継ぎをして、2人で買取作業を進める。
店内業務は、私が中心に担当した。
休憩の時間になり、外へ出る。
思ったより風が冷たくて、肩をすくめた。
「お昼でも寒いな……」
徒歩7分ほどのコンビニへ向かう途中、街路樹の葉はほとんど落ちかけていた。
秋が終わるころの空気は、どこか静かで、少し寂しい。
「せめて暖かいものを食べよう」
そう思いながら歩いた。
コンビニのポスターが目に留まる。
《中華まん 50円引き》
「中華まん……いいかも」
ガラス越しのケースに並んだ、ほかほかの中華まん。
肉まんもあんまんも美味しそうで、しばらく悩んだ末に、結局どちらも買うことにした。
中華ワンタンスープも一緒に購入する。
店に戻って、休憩室に入る。
スープをレンジで温めている間に手を洗う。
「いただきます」と小さくつぶやく。
肉まんの包みを開けると、小麦の香りが鼻をくすぐった。
ひと口かじると、熱々の肉汁が口いっぱいに広がる。
「美味しい……」
外の冷たい空気を思い出すと、この温かさが余計にありがたく感じた。
中華スープをすすると、少しずつ体が温まっていく。
あんまんは思ったより甘すぎず、しっとりとしていて、食べ終えるころには自然と笑みがこぼれていた。
「久しぶりにコンビニの中華まん食べたな」
いつもはスーパーのを買って家で温めるけれど、またコンビニもいいかも。
寒い日のちょっとしたごちそうの様に感じた。
休憩を終えて、店に戻る。
すると店長が声をかけてきた。
「お昼、ちゃんと食べた?」
「はい。久しぶりにコンビニ中華まんを食べました」
「いいね。寒くなるとあれ、食べたくなるよね」
「そうなんですよね」
たわいもない会話だけど、それが妙にあたたかく感じた。
あとがき
寒くなる季節には、温かいものが一番のごちそうですね。
朝のつまずきも、今回のようなちょっとした出来事で少しだけ気持ちがやわらぐ気がします。
普段食べないものを久しぶりに食べると、その味が時々印象に残ることもあります。
川嶋さんにとって、そんな小さな出来事が、日々を支える力になっていれば嬉しいです。