水谷さんとシフトが重なる日。
私は、以前オープンしたパン屋さんで、クッキーとマドレーヌを買った。
お店は駅から職場へ向かう途中にある。
オープンしてから、私は週に一度くらいのペースで通っている。
いつもはお昼用のパンを買うことが多いけれど、
この日は水谷さんへのお礼として、お菓子を選んだ。
以前、一度だけ買ったことがあるクッキーとマドレーヌがとても美味しくて、
「これなら喜んでもらえるかも」と思ったのだ。
出勤すると、水谷さんが笑顔で声をかけてきた。
「川嶋さん、この前のお茶です」
そう言って、5つ分のティーバッグ入りの桂花茶を差し出す。
「こんなにいいんですか?ありがとうございます、水谷さん」
私は今朝、お昼用のパンとは別に分けてもらったお菓子の袋を取り出した。
「桂花茶のお礼に」と言いながら渡すと、
水谷さんは少し驚いたように、嬉しそうに笑った。
「えー、うれしい。ありがとう。ここのパン屋さん、気になってたのよ」
「そうなんですか? パンも美味しいので、今度買ってきますよ」
「あら、ありがとう〜。楽しみにしてるわ」
そんな他愛もないやりとりのあと、
朝の業務が始まった。
その日の帰り道、私は自分の分のお菓子が入った袋と、
水谷さんからいただいたお茶の袋をなんとなく眺めた。
金木犀の季節が終わる前に、ゆっくり味わおう。
「明日は休みだしね」
そんなことを思いながら、家へ帰った。
次の日。
朝は早めに目が覚めた。
洗濯や掃除を済ませて、テーブルに桂花茶の袋を置く。
袋を開けると、花びらの香りが広がる。
「いい香り……」
お湯を沸かしながら、その香りに癒やされる。
湯気が立ち始め、カップにお湯を注ぐと、
金木犀の香りがふわりと広がった。
まるで通勤路で感じた秋の風の香りが、
部屋の中に戻ってきたようだった。
ひと口飲むと、ほんのり甘く、体の奥からあたたかくなる。
「……おいしい」
自然と笑みがこぼれる。
テーブルの上には、昨日買ったパン屋さんのマドレーヌとクッキー。
桂花茶と一緒にいただく。
「このお茶、甘すぎなくてお菓子と合うなぁ」
しっとりとした甘さに、花の香りが重なって、
なんだか贅沢な時間に思えた。
外では風が木々を揺らし、窓越しに秋の光が差し込んでいる。
「こんな朝も、いいな」
そうつぶやいて、もう一口お茶を飲んだ。
天気もいいし、午後は少し出かけようかな。
どこがいいかな……。
そんなことを考えながら、季節の移ろいをゆっくりと感じていた。
―――
あとがき
香りや味から季節を感じられるのは、いいですよね。
職場での小さなやりとりが、休日の心の支えになる。
そんなつながりもいいなと思いながら、
川嶋さんの穏やかな休日を描きました。
ちなみに、パン屋さんのラスクも美味しくて、実は私のお気に入りです。