短編・連作小説 季節の変わり目と美容院

世間的には、もうすぐクリスマスかぁ。
休日、美容院の予約をしていた。
向かう途中、街のあちこちが赤と緑に染まっている。
雑貨屋さん、スーパー、お花屋さんなど。

ハロウィンが終わった次の日から、街は一気にクリスマスモードになる。
うちの店はハロウィンでは特に何もしなかったけれど、クリスマスには小さなツリーを飾る。
あとは、昨年のクリスマス時期の買取品を棚に並べる。
そういうものを出すと、なんとなく年末の気配を感じる。

きっと、あっという間に年が明けるんだろうな。

美容院に着くと、いつもの担当の方が笑顔で迎えてくれた。
私はもう何年も、この方にお願いしている。
話しやすいというより、「余計なことを聞かれない」感じが、ちょうどいい。

「今回も前回と同じ感じでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします。」

まずはカラー。
少しだけ目立ちたくないので、いつも落ち着いた濃い茶色にしている。
カラーが終わるまでの時間、タブレットで雑誌を読むこの時間が好きだ。

その後にシャンプーとカット。
ハサミの音やドライヤーの風の音を聞きながら、鏡越しの自分を見る。
鏡越しに見える自分は、少しだけ明るい顔に見えた。

担当の方は、髪のことは丁寧に話してくれる。
“最近どうですか?”みたいな雑談はほとんどない。
でもそれが、私にはありがたい。

時々思う。
仕事では人と普通に話しているのに、
こういう場所では、うまく言葉が出てこない。

まだ自分は、ちょっとだけ人付き合いが苦手な人なのかもしれない。
でも、今はそういう自分も受け入れているから。

私はプライベートをガツガツ聞かれるのは少し苦手だ。
私の年齢だと、彼氏、結婚、子供の話題になることが多いから。

美容院のツリーを見ながら思う。
今年のクリスマスも、何もないのかな。
……でも、何かひとつくらい、クリスマスっぽいことをしてもいいかも。

軽いショッピングを済ませた帰り道。
駅前のケーキ屋さんに寄った。
ショーケースには、華やかなクリスマスケーキが並んでいる。
限定のデコレーションケーキも可愛かったけれど、私はあえてショートケーキをひとつだけ選んだ。

「今日はこれで、十分かな」

なんとなくまだクリスマスの気分にはなれなかった。
家に帰って、温かいお茶と一緒に食べよう。
そう思ったら、少しだけ心が軽くなった。

ツリーの明かりを見ながら、
静かな一日が、少しだけ特別な日に変わった気がした。

あとがき

美容院という何気ない場所にも、その人らしい距離感や安心感がある。
今は静かにしたい、お話したい、などを選べるお店も増えましたね。

同じ美容院に通う人、気分で変える人。
どちらにも、それぞれの居心地があるんだと思います。

川嶋さんにとっては、いつもと同じ帰り道に、小さなケーキが加わるだけで十分なご褒美。
そんな穏やかな時間を書きたくて、このお話にしました。