休日の午前中、私は少し早めに家を出た。
吐く息が白く、マフラーの中の温もりが心地いい。
「4年ぶりに会うんだな……」
駅へ向かう道を歩きながら、胸の奥が少しそわそわしていた。
大学時代の友人、美香。
卒業してからも何度か会っていたけれど、仕事や生活のリズムが合わなくなり、私も精神的に辛かった時期もあり気づけば何年も経っていた。
最後に会ったのは、美香の結婚式。
そのときはまだ赤ちゃんはいなかったから、今日初めて会うことになる。
約束のファミレスに着くと、美香が気づき、手を振ってくれた。
「夏希ー!」
その隣には小さなベビーカー。
中には、ふっくらした頬の赤ちゃんがちょこんと座っていた。
「美香!久しぶり。わぁ……赤ちゃん! 可愛いね」
「でしょ? 1歳になったの。女の子で、名前は凛」
美香が笑うと、娘もつられて声を上げて笑った。
その柔らかな空気に、寒さで強ばっていた指先が少しほぐれていく。
ファミレスのメニューを見ると、クリスマス限定のメニューが増えていた。
メニューを開きながら、私たちは昔のように自然に話し始めた。
「高校のとき、よくここで勉強してたよね」
「懐かしいね。あの頃はテスト前とか集まってさ」
「夏希はいつもノートまとめてくれてたなぁ」
「そうだったっけ?」
「私、今日久しぶりにこっちに来たよ」
「そうなの? なら今住んでるところの話とか教えてほしいな」
「もちろん!」
笑いながら、ドリンクバーで持ってきたお茶を口に運ぶ。
美香は結婚して5年。夫は同じ地元の人で、今は近くで働いているという。
「最近は育児と家事でいっぱいいっぱいだけど、でもね、やっぱり子供がいると毎日が違うんだよね。大変だけど楽しいよ」
そう言って娘の髪を撫でる美香の横顔が、少し大人びて見えた。
その姿を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。
同時に、ほんの少しだけ寂しさもあった。
(私と同じ歳なのに、もうお母さんなんだな……)
結婚式のときのドレス姿も眩しかったけど、
今は母親という新しい顔が、とてもまぶしい。
「夏希は職場、どう?」
「最初は大変だったよ。もちろん今もまだ学ぶことはいろいろあって。周りもいい人達だから頑張れてるところもあるかな。みんな優しいから」
「そっか。夏希が大変だったのはLINEで聞いてたけど、それなら良かったわ。職場にはいい人とかいないの?」
「いや、そういう意味でのいい人はいないかな。年も離れてるし」
「でも、大人になったら年齢なんて関係ないと思うけどな」
美香はお水を飲みながら、少し考えるように言った。
その穏やかな仕草に、昔の彼女のままの優しさを感じる。
確かにそうかもしれない。
けれど私には、まだその感覚がつかめていない気がして。
今の自分の年齢で、そんな余裕がないことも、もちろん知っている。
美香が話題を変えてくれて、また別の話になり、その話題で笑い合う。
こうして話している時間が心地いい。
気づけば2時間以上が経っていた。
「この子も大きくなってきたら会いやすくなると思うし、また会おうね」と美香。
「凛も挨拶してね!」
「ばいばい」
凛ちゃんが笑って手を振ってくれた。
その声に、自然と笑顔がこぼれる。
外に出ると、すっかり日が暮れていた。
街の並木には灯りがともり、イルミネーションがきらきらと瞬いている。
カップルや家族連れが写真を撮っていて、街全体が少しだけ浮き立って見えた。
綺麗だな、と思う。
でも、ふと胸の奥に静かな寂しさが滲んだ。
(ひとりで見るイルミネーションって、少し切ないな……)
駅までの道を歩きながら、
冬の冷たい風と光のきらめきが、少しだけ胸に沁みた。
寂しさの奥に、温かい余韻が残っている。
「凛ちゃん、可愛かったな。美香ともまた会いたいな」
大学時代に歩いていた街並みの中、小さく呟いた。
光の粒がゆらゆらと揺れて、
その一瞬が、心の奥にやさしく焼きついた。