短編・連作小説 過去編② あの人との出会い 『川嶋夏希』

全てが嫌になっていた。
幸せな人は見たくない。
両親がいる実家にもいたくない。
でも、一人暮らしをしていけるお金もない。
私にできる仕事も見つからない。

何もしたくない。
気づけば「明日なんて来なければいい」と思うことが増えた。
でも自分から命を投げ出すことは出来なかった。
そこはチキンなのだ、私は。

無になりながらも、自分に何が出来るのかをネットで探す日々。

電車に乗り、ハローワークにも通った。
失業保険を貰うためだ。

相談員と事務的な会話をする。

「こちらはどうでしょう?」

紹介されたのは一般事務。
仕事を探さないと失業保険は貰えない。
面接だけの職場。
すでに用意してあった履歴書と職務経歴書を、面接の日に持っていくことになった。

明日なんて来なければいいと思っているのに、そういうことだけは現実的にこなしてしまう自分が嫌になる。

そして面接の日。季節は秋。
散歩にはちょうどいい季節だった。

行きたくない気持ちもあったが、私は面接の職場に向かった。
荷物を再確認し、かなり早い時間だが家を出る。
到着予定時間より一時間早く着いた。

理由は、また気持ち悪くなるかもしれない。
私には休む時間が必要だと思った。

まずは職場の場所を確認し、近くの公園の木のベンチに座った。

外はそこまで寒くないのに、ベンチが少しひんやり感じた。

なんで私はこんなに早く家を出たんだろう。
別に行きたい会社でもないのに。
失業保険がもらいたいから面接に行くだけなのに。
自己PRとか特にアピールするところもないな。

その後は何も考えたくなくて、ただベンチに座っていた。

そして時間が近くなり、お手洗いを済ませた私は面接に向かった。

大丈夫…大丈夫……と自分に言い聞かせる。

面接官は女性が一人。
履歴書と職務経歴書を渡した。
そして面接が始まる。

志望動機など様々な質問を聞かれたが、その時きちんと答えられのかは私の記憶にはない。
その女性が、過去の上司の女性に見えたからだ。

頭がふらふらする。
あまり記憶がないまま出た私は、また公園に戻り、あのベンチに座った。

気持ち悪い。

やっぱり私はもうダメなのかもしれない。そう思った。

どのくらいの間そうしていたのだろう。
その時、声をかけられた。

「大丈夫? 顔色かなり悪そうだけど」

男の人の声がした。

はっきりしていて聞きやすい声の人だという印象は残っているが、帽子をかぶっていたので顔までは覚えていない。

その時の自分が何と答えたのかも覚えていない。
帽子の男性はペットボトルの水を買ってきて私に渡してくれた。

「とりあえずこれ飲んで、深呼吸してみて」

その人は、座っている私から少し離れた場所で様子を見ていた。

しばらくして男の人はいなくなった。

私は水を飲んで休んだからか、少し落ち着いてきた。
どのくらいの時間が経過したのかは分からない。

その時、帽子の男の人が戻ってきた。

「これ、食べられる?」

ドラッグストアで売っている栄養ゼリー飲料とコンビニのカステラだった。

「ありがとうございます。食べてみます」と私。

まずはゼリー飲料から。
「……。」
ほんのりとりんごの味がして優しい味がした。

普段は栄養ゼリーの味くらいにしか思わないのに、その飲み物がとても美味しく感じた。

「大丈夫?飲めそう?」

「はい、美味しいです」

「それならよかった。カステラも食べてみる?」

「はい」

カステラも一口食べてみる。

甘くてふわふわしていて、とても美味しく感じた。

食べ物をこんなに美味しいと思ったのは久しぶりだった気がした。

「カステラも美味しいです…。」

「よかった。とりあえず、大丈夫そうでよかったよ」

「あの、ありがとうございます」

「それ、全部食べていいからね。……おっと、もうこんな時間だ。それじゃ俺はこれで」

「あ、あの…お礼を」

気づけば、帽子の男性はいなくなっていた。

男性がいなくなった後もカステラを食べ続ける。

気づけば自然と目から涙が流れていた。
そしてすこしだけ暖かい気持ちになった。

その出会いが、少しだけ私に勇気をくれた気がした。