全てが嫌になっていた。
幸せな人は見たくない。
両親がいる実家にもいたくない。
でも、一人暮らしをしていけるお金もない。
私にできる仕事も見つからない。
何もしたくない。
気づけば「明日なんて来なければいい」と思うことが増えた。
でも自分から命を投げ出すことは出来なかった。
そこはチキンなのだ、私は。
無になりながらも、自分に何が出来るのかをネットで探す日々。
電車に乗り、ハローワークにも通った。
失業保険を貰うためだ。
相談員と事務的な会話をする。
「こちらはどうでしょう?」
紹介されたのは一般事務。
仕事を探さないと失業保険は貰えない。
面接だけの職場。
すでに用意してあった履歴書と職務経歴書を、面接の日に持っていくことになった。
明日なんて来なければいいと思っているのに、そういうことだけは現実的にこなしてしまう自分が嫌になる。
そして面接の日。季節は秋。
散歩にはちょうどいい季節だった。
行きたくない気持ちもあったが、私は面接の職場に向かった。
荷物を再確認し、かなり早い時間だが家を出る。
到着予定時間より一時間早く着いた。
理由は、また気持ち悪くなるかもしれない。
私には休む時間が必要だと思った。
まずは職場の場所を確認し、近くの公園の木のベンチに座った。
外はそこまで寒くないのに、ベンチが少しひんやり感じた。
なんで私はこんなに早く家を出たんだろう。
別に行きたい会社でもないのに。
失業保険がもらいたいから面接に行くだけなのに。
自己PRとか特にアピールするところもないな。
その後は何も考えたくなくて、ただベンチに座っていた。
そして時間が近くなり、お手洗いを済ませた私は面接に向かった。
大丈夫…大丈夫……と自分に言い聞かせる。
面接官は女性が一人。
履歴書と職務経歴書を渡した。
そして面接が始まる。
志望動機など様々な質問を聞かれたが、その時きちんと答えられのかは私の記憶にはない。
その女性が、過去の上司の女性に見えたからだ。
頭がふらふらする。
あまり記憶がないまま出た私は、また公園に戻り、あのベンチに座った。
気持ち悪い。
やっぱり私はもうダメなのかもしれない。そう思った。
どのくらいの間そうしていたのだろう。
その時、声をかけられた。
「大丈夫? 顔色かなり悪そうだけど」
男の人の声がした。
はっきりしていて聞きやすい声の人だという印象は残っているが、帽子をかぶっていたので顔までは覚えていない。
その時の自分が何と答えたのかも覚えていない。
帽子の男性はペットボトルの水を買ってきて私に渡してくれた。
「とりあえずこれ飲んで、深呼吸してみて」
その人は、座っている私から少し離れた場所で様子を見ていた。
しばらくして男の人はいなくなった。
私は水を飲んで休んだからか、少し落ち着いてきた。
どのくらいの時間が経過したのかは分からない。
その時、帽子の男の人が戻ってきた。
「これ、食べられる?」
ドラッグストアで売っている栄養ゼリー飲料とコンビニのカステラだった。
「ありがとうございます。食べてみます」と私。
まずはゼリー飲料から。
「……。」
ほんのりとりんごの味がして優しい味がした。
普段は栄養ゼリーの味くらいにしか思わないのに、その飲み物がとても美味しく感じた。
「大丈夫?飲めそう?」
「はい、美味しいです」
「それならよかった。カステラも食べてみる?」
「はい」
カステラも一口食べてみる。
甘くてふわふわしていて、とても美味しく感じた。
食べ物をこんなに美味しいと思ったのは久しぶりだった気がした。
「カステラも美味しいです…。」
「よかった。とりあえず、大丈夫そうでよかったよ」
「あの、ありがとうございます」
「それ、全部食べていいからね。……おっと、もうこんな時間だ。それじゃ俺はこれで」
「あ、あの…お礼を」
気づけば、帽子の男性はいなくなっていた。
男性がいなくなった後もカステラを食べ続ける。
気づけば自然と目から涙が流れていた。
そしてすこしだけ暖かい気持ちになった。
その出会いが、少しだけ私に勇気をくれた気がした。