短編・連作小説 特別じゃない・クリスマスイブ

今日はクリスマスイブ。
今年は平日で、仕事の日。

朝、いつものように支度をして家を出る。
駅までの道も、乗り慣れた電車も、変わらない日常。
ただ、頭のどこかで、今日はクリスマスイブなんだと分かっているだけだった。

お店に着いて、開店準備を始める。
開店準備は私ひとり。しばらくすると店長が出勤する。

シャッターを上げ、レジを立ち上げ、引き継ぎ事項を確認し、棚を軽く整える。

この開店前の静けさは、今では嫌いじゃない。

初めて開店作業を一人で任された時、この静けさが怖かった。
間違いがないのか、きちんと出来ているのか。
そればかりを心配していたから。

休憩室に、以前お店で買ってきたクッキーを置く。
クリスマス柄の簡易な包装。
値段も、気を遣わせないくらいのもの。

「ご自由にどうぞ」

そう書いたメモを添えるまで、ほんの少し迷った。
余計なことだと思われないかな、とか。

でも、今日はクリスマスイブだし。
いつも皆さんにお菓子をいただいているし、いいよね、と。

さすがにメリークリスマスと書くのはやめておいた。

開店後、やはりそこまで混むことはなかった。
しばらくして、店長がドアから顔を出す。

「おはよう、川嶋さん。あとクッキーありがとう。あとでいただくよ」

と、いつもの調子で言う。

「はい、ぜひ」

そうして午前の内容を店長に伝え、業務に戻る。

午後になり、杉山さんも出勤する。

「皆さんお疲れ様です。あと川嶋さん、クッキーありがとうございます。後でいただきます」

「はい、ぜひ召し上がってください」

大したことじゃない。
でも、2人からお礼を言われたので、なんとなく嬉しかった。

すると店長が、

「今日はクリスマスだね。まあ、うちの店はクリスマス後の方が忙しいからね。世間的には年末の大掃除で、いらない物が出てくる事も多いし」

「買取店だと、そうなっちゃいますよね」

「まあ、期間が短いとはいえ、うちの店が年末年始休みだからというのもありますけどね」
と杉山さん。

「そうそう。年明けの出張買取もすでに何件か予約入ってるから応援も頼んであるよ。まあそんなわけで、メリークリスマス!」

「メリークリスマスと何も引っかかってないですけど。あと今日はクリスマスイブなので、正確には明日がクリスマスです」

「まあまあいいじゃない、杉山くん。硬いこと言わないの」

いつもの雰囲気に、私は少しだけ笑ってしまった。

「ほら、杉山くん仕事するよ。川嶋さんは休憩どうぞ」

「はい、ありがとうございます。休憩いただきます」

そして私は休憩室に向かう。

午後は買取も多く忙しかったが、三人いたので、店頭販売や商品加工も含め、特にトラブルもなく終えることが出来た。

夜になり、遅番の中村くんと入れ替わる時間。

彼も休憩室のクッキーに気づいたらしく、

「お疲れ様です。川嶋さん。クッキーいただきました。ありがとうございます。」

と、お礼を言ってくれた。

「いえいえ。わざわざお礼ありがとう」

中村くんまでお礼を言ってくれるとは、とまた少し嬉しくなった。

帰り道を歩きながら、ふと、昔の自分を思い出す。
体調を崩し、気持ちも落ち込み、退職した頃。
人と話すことが、とにかくしんどかったあの頃を。

あの頃のクリスマスは、ただの騒がしい日だった。

街の音も、光も、楽しそうにしている人たちも。
全部が重たく感じて、早く終わってほしいとしか思えなかった。

でも今、こうして街を歩いていると、きちんとクリスマスだなと感じる。

ケーキの臨時販売、イルミネーション。

大きな街ではないけれど、それでも十分にクリスマスだった。

せっかくだしケーキ、買って帰ろうかな。
そう思って、近くのスーパーに寄る。

チキンは少し量が多い気がしたので、唐揚げ弁当にした。

袋を提げて歩きながら思う。

クリスマスが特別じゃなくても、
私も少しだけ、変われたんだなと。

そんなクリスマスイブだった。

あとがき

今年のクリスマスは平日クリスマス。
だからといって特別なことをしなくても、自分が満足出来るなら、それでいいのではないかと思います。

最近、川嶋さんシリーズの過去編を投稿するようになりました。

その流れの中で、今の川嶋さんならではのクリスマスのエピソードを書いてみたいと思い、このお話が生まれました。