短編・連作小説 冬服と毛布

朝、起き抜けに窓を開けると、ひやりと冷たい空気が部屋に入り込んだ。思わず肩をすくめながら

「今日は寒いな…」と思わず呟く。

冬が始まる直前の、この判断の難しい季節があまり得意ではない。寒いとも言えるし、まだ秋だとも言える。真冬のコートを着るには早い気がするけれど、薄手のジャケットだと心許ない。

鏡の前でじっと立ち尽くして、首元にマフラーを当ててみる。

「うーん、さすがにまだ早いか…」

外したマフラーをベッドの端に置くと、そこには薄い布団と少しだけ厚手の冬布団が重ねられていた。夜は寒い。でも完全な冬布団に変えると、たまに暑い日もあって寝づらい。

(いつ切り替えたらいいんだろう…毎年これで迷うんだよね)

そんなことを思いながら、風邪ひくよりはいいかと、結局厚手のコートを羽織って家を出た。

家を出て駅までの道を歩きながら、すれ違う人の服装をなんとなく眺める。
薄手のカーディガンの人、マフラーを巻いている人、ダウンコートを着ている人。

(同じ気温なのに、こんなに違うんだ…)

吐く息が白くなるほどではないけれど、風は冷たい。
自分のコートが急に正解でもあり、間違いでもあるような気がしてくる。

朝、出勤するとバックヤードの空気がひんやりする。

寒くなってくるとこれが嫌なんだよな、と思いながら開店準備を進めていると、店内は少しずつ暖かくなっていく。暖房の温かみがじんわりと体にしみる。

今日は杉山さんが来るまで一人だ。

頑張ろう、と自分に言い聞かせ、午前中の仕事に集中した。幸い、トラブルはなかった。

正午近くになり、杉山さんが入ってくる。いつもの落ち着いた雰囲気で挨拶してくれた。

「川嶋さん、おはようございます。今日は割と暖かいですね」

あっさりした口調に、思わず「え?」と声が漏れた。

「暖かいですか?」

「この時間だと昼だし陽が出てますからね。コート薄手にしたけど、日差しが強いので暑いくらいでした」

(そうなの…?)

驚きがそのまま表情に出たのか、杉山さんは少し笑った。

「川嶋さんは、寒かったんですね」

「はい。朝の空気がすごく冷え込んでて…冬のコート着てきちゃいました」

「いいと思いますよ。風邪ひくのが一番だめですし。朝出勤だと寒いですよね」

「そうですね。でも杉山さん、薄手のコートじゃ帰り寒いんじゃないですか?」

「まあ確かに。まあでも俺はそこまで寒がりじゃないので大丈夫かと」

羨ましいなと思った。
せっかくなので布団の話も聞いてみる。

「家ではもう冬用の毛布出してます?」

「いや、まだですね」

「寒い日ないですか?」

「寝れば温まりますよ。逆に厚いと寝にくくて。でも時期的にそろそろ出さないとな、とは思いますけど」

(寝れば温まる……私はなかなか温まらないんだよな)

「寒いと、なかなか眠れないですか?」

「はい。私冷え性なので足先が冷えると、本当に眠れなくて…」

「それは辛いですね」

季節にいちいち振り回されている自分が、少しだけ悲しく思えてくる。

「男の人はそこまで寒さ気にしないんですかね?」

「まあ、俺はそうかもしれないですね。寒がりな人もいるとは思いますけど。あ、中村くんは寒がりと前に言ってましたよ」

「そうなんですね。中村くんには今度聞いてみます。中村くんは時間的にも会う機会が少ないので」

「まあ大学生だから、休日以外基本遅番ですからね」

「ですね」

こうして私たちは仕事に戻った。
やることはたくさんある。少しずつ手分けして業務を進めていった。

夜、仕事を終えて外に出ると、昼間より風が冷たくなっていた。

(やっぱり寒い…冬のコートでよかった)

杉山さんは遅番だし、あの薄いコートじゃ寒いんじゃないかな、と少しだけ心配になる。

いつもと同じ道を歩きながら、帰宅して布団を見つめた。今日は薄い毛布も重ねよう。私は寒がりだから、無理しない。

季節の境目の迷いは毎年やってくるけれど、人それぞれなんだな、と静かに思った。

あとがき

この時期の服装は本当に迷いますよね。布団も含めて。
時々、真冬でも半袖の人を見かけます。雪が降っている日でも。

皆さんが育った環境もあるのかもしれません。寒さの感じ方も違うし、体質も違う。本当に人それぞれだなと思いました。