午後の店内はほどよく落ち着いていて、私はレジ近くの商品を整えていた。
そのとき、カラン、と柔らかいドアベルの音が響く。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのは、親子連れだった。
小さな男の子が店内をぐるりと見渡す。
あれ、どこかで。
そんな気がしたけれど、私はそのまま手元の作業に戻った。
しばらくして、プラレール棚の前で男の子が真剣な顔で商品を触りながら見ている姿が目に 入る。
お母さんは「壊さないでね」と優しく注意していた。
数分後、男の子はようやく一つに絞ったらしく、お母さんと一緒にレジへ向かってこちらへ歩いてきた。
「あっ……」
男の子の小さな声が漏れた。
顔がぱっとこちらを向く。
目が合った瞬間、表情がぱあっと明るくなる。
「あ、なつきだ!!」
「え、コウタくん?」
駆け寄りそうになる勢いで足を動かし、でもお店の中だからとぎりぎりで止まった。
その後ろから、お母さんも追いついてくる。
「もう、コウタ。お店の中で走らないって言ったでしょう」
「母さん、この人、この前話したなつきだよ!」
私の姿に気づいたお母さんは少し驚いて、それから深く頭を下げた。
「もしかして……公園で助けて下さったなつきさんですか?
この前は本当にありがとうございました。コウタと良平から聞きまして……なんとお礼を言ったらいいか」
「いえ、本当に、偶然会っただけで……」
「コウタがずっと、なつきさんがはやぶさの話してくれたって嬉しそうに言うんです。
なるほど、こちらでプラレール扱っていたから詳しかったんですね」
コウタは照れくさそうに、でも少し誇らしげに笑った。
「今日はプラレールを探しに?」
「えっと……はい。中古品をネットで探してたらこのお店が出てきて、
コウタがここ行きたい!って言うので」
「でも、なぜか途中からおもちゃが良かったみたいで」
「やっぱりプラレールもう一回見る!」
そう言いながら、コウタは棚へ戻っていった。
けれど、最終的に選んだのはプラレールではなく、棚の端にあったはやぶさの小さなおもちゃだった。
「これもいい?」
お母さんが値段を確認し、「いいわよ」と笑う。
帰り際、お母さんが名刺サイズのショップカードを差し出した。
「私は夫と一緒に小さなカフェを経営しておりまして。
もしお時間あるときにでも、ぜひいらしてください」
「あ、ありがとうございます」
カードは角が少しだけ丸く、手触りがやわらかい。
きっとお店で手作りしているのだろう。
自宅からなら、思ったより近い場所だった。
お母さんとコウタが手をつないで帰っていくのを見送る。
少し離れた場所にいた店長が、こちらに歩いてきてにこっと笑った。
「いいこと、あったみたいだね」
その笑顔に、なんだかくすぐったくなる。
カフェか。今度、行ってみようかな。
あとがき
小さな偶然が、思ってもいないところでもう一度巡ってきましたね。
川嶋さんにとって、コウタくんとの再会はまさにそんな出来事でした。
あの日、ほんの少し勇気を出して声をかけたこと。
その小さな一歩が、カフェという新しい場所を知るきっかけになり、
コウタくんのお母さんとの繋がりにもなりました。
川嶋さんは今日も、自分のペースで少しずつ前へ。
そんな小さな歩みを、これからもそっと見守っていけたらと思います。
※コウタくんのお話は24話迷子の男の子に連載されています

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