短編・連作小説 過去編11 帰宅

初日の仕事を終えた私は自宅に着き、ドアを開けた。

「ただいま」

「あ、夏希おかえり」  

母が玄関前まで来てくれた。おそらく心配してくれたのだろう。

おかえりと声をかけてくれても「大丈夫だった?」など、そこまで母は話さない。
私が一度過去に鬱だった時、「何でも聞くのやめて!」
と話してから母も父もそこまで詳しくは聞かなくなった。

玄関前まで来たのは私の顔色を見るためだったのかもしれない。
別にご飯の時でもいいのにと思った。

「ご飯出来てるわよ」

「うん、ありがとう」

私は荷物を置き、手洗いうがいを済ませ、リビングへ向かう。
少し休みたかったけど、お腹も空いていた。

食卓には、私の好きな唐揚げと、彩りのいい煮物が並んでいた。

「明日も仕事よね」

母が箸を動かしながら、聞いてきたので私は

「うん。とりあえず、大丈夫そう」

嘘ではない。でも、いつまで続くかなんて自分でも分からない。

「そう、それなら良かったわ」

「うん、ありがとう。ご飯美味しかったよ。ご馳走様でした」

今日のご飯は私が好きなものが多く、いつもより少し豪華な気がした。
母が私に気を遣ってくれていることが伝わってきた。

「お風呂はもう少し待ってね」

「うん、わかった」

会話はそれだけだった。仕事の事は話せなかった。
まだ続く保証もなかったから。

そうして私は食器を片付け洗ってからリビングを後にした。
私は自分の部屋へ戻った。

ドアを閉め、「ふぅ〜」とため息が出た。やっと落ち着けた気がした。

こんなに一日中誰かと話したり、言葉を発したりしたのは久しぶりだった。
いや、今までもそんなに話す方じゃなかったか。
初めてのことばかりだったな。
でも最後までちゃんと働けた。明日も仕事かぁ。

しばらくぼーっとしていたら、部屋の外から母の声がした。

「夏希、お風呂沸いたけど入る?」

「うん、入る」

そうして私はお風呂場へ向かった。
もう少しゆっくりしたかったなとは思ったけど、順番がある。
求職中だった頃と変わらない、いつものことなのに何か違和感を覚えた。

お風呂から出た私はそのままベッドに入りたかったが、テーブルに向かい、今日書いたメモを別のメモにわかりやすくまとめた。

明日は女性の方が教えてくださると言っていた。
少しでも迷惑をかけないようにしないとと思ったから。

メモを書きながら、目が自然に閉じていく。

あ、歯を磨かないと。
部屋を出て歯を磨き、他にも寝る支度を済ませてベッドに入る。

「明日も、頑張れますように」
そんなことを思いながら自然と目が閉じていき、私は眠りについた。