今日は土曜日。
午後になり、店長、杉山さん、私、中村さんの4人体制になった。
基本的に杉山さんが中村さんを教えている。やっぱり杉山さんは教えるのが上手いな。
杉山さんから聞いた話だけど、中村さんはここが初バイトらしい。
日雇いバイトならあるけれど、接客は初めてだとか。
ふと横を見ると、中村さんが商品の箱を黙々と並べ替えていた。
眼鏡の奥の目は真剣そのもの。
まだ入ったばかりなのに、手際は悪くないなと思った。
「少しは慣れてきた?」
私がそう声をかけると、
「はい、なんとか。……でも、まだわからないことばっかりで」
「まあ、最初はそんなものだよ」
そう言ってから、私も自分の最初の頃を思い出す。
あれこれ聞きたくても、聞くのが下手で一人で悩んでしまっていたっけ。
やたらとメモをとって、家に帰ってノートにまとめていた気がする。
「中村さんは、普段は大学が終わってからここに来るんだよね?」
「そうですね」
「大変じゃない?」
「うーん……でも、好きなことに使うお金は欲しいんで」
「好きなこと?」
そこで中村さんの表情が変わった。
さっきまで落ち着いていた声が、少し弾む。
「僕、〇〇っていうRPGのアプリが好きで、今のは3年ほどやってるんですけど、どうしてもストーリー見たさに課金しちゃうんですよ。でもそのストーリーが本当に良くて〜」
そこからの早口は止まらなかった。
「そういえば、その名前……CMで見たことあるかも」
「おお、そうなんですね!」
と、また中村さんの話が盛り上がる。
私も前まではアプリゲームをよく遊んでいたけど、課金するほどではなかった。
だから夢中になる気持ちはわかる気がした。
私にはよくわからない部分も多いけど、好きなことを語るときの彼はとても楽しそうだ。
オタクあるあるだね。
心の中でちょっと笑ってしまった。
「……あ、すみません。つい」
我に返ったように頭を下げる中村さん。
「いいよ。好きなことの話してると、つい熱が入るよね」
「はい……昔からそうで」
その素直な言い方に、少し和んだ。
すると杉山さんが口を挟む。
「まあ、仕事はきちんと出来てるし大丈夫そうだと思うよ。ただ、お客さんにそれはやらないようにね」
「わかりました。気をつけます」
まだ少し緊張していそうだけど、それでも真面目さと一生懸命さが伝わってきた。
いい人そうでよかった。早く馴染めるといいね。
あとがき
新しく入った人が「どんな人なのか」って、ちょっとした会話の中で見えてくるものです。
特に、好きなことを話すときの顔は、その人らしさが一番出る瞬間。
普段は落ち着いた雰囲気でも、話題によって一気に表情が変わる。
そんなギャップのある中村さんに、川嶋さんも少し安心したのかもしれません。
裏表のなさそうな感じが伝わってきて、話しかけやすい後輩になりそうです。

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