短編・連作小説 実家での大晦日 中編

インターフォンを押すと、すぐにドアが開いた。

「夏希、久しぶり。外寒かったでしょ」

「うん、久しぶり。でも大丈夫。お邪魔します」

「そこは、ただいまでしょ」

「確かにそうだね」

玄関に上がり靴を脱ぎ、手にしていた袋を差し出す。

「これ、連絡したお蕎麦と和菓子」

「ありがとう。夜にお蕎麦作るわね」

居間に入ると、テレビがついていた。

年末の特番が流れていて、父は畳の上に座布団を敷いて横になっていた。

「おお、おかえり」

「ただいま」

いつも通りの少ない会話。
昔からこうだった。

「とりあえず部屋に荷物置いて、のんびりしててね。少し早いけど、五時ごろご飯にするわね。年越しそばは遅めに食べましょう」

「うん、ありがとう」

軽い荷物を持ち、二階の自分の部屋に向かう。
二階建てだけど、三人で暮らすには少し手狭な家。
それでも、私が小学校高学年になった時、両親は私に一部屋をくれた。

派遣の仕事で一人暮らしを始めた時も、この部屋はそのままだった。
引っ越す時に荷物はだいぶ減らしたけれど、昔の本やアルバム、もう着ない服だけは実家に置いてきた。

この部屋の中は、あの頃とほとんど変わらない。
物の配置も、空気の感じも。
おそらく、定期的に掃除をしてくれているのだろう。
そのことに、ありがたさと、少しだけ居心地の悪さを同時に感じる。

ベッドに腰を下ろす。
知らない場所じゃないのに、自分の居場所でもない。

一年前まで、確かにここで暮らしていた。

ベッドで寝転んでいると、一階の台所から料理をしている音が聞こえてきた。母が晩ご飯の準備をしているのだろう。

五時が近くなってきた頃、母が大声で私に声をかけた。

「夏希、そろそろご飯できるよ」

三人分のご飯が並ぶ。変わらない茶碗。
いつもより少しは豪華にしてくれているのだろうと感じる食卓。
自分で作らなくても出てくるご飯。

「いただきます」

そう言って、箸を取る。
久しぶりに食べる母の手料理は、懐かしい感じがして美味しかった。

テレビでは、年末の特番が流れている。
芸人さんのグループが並んでいて、スタジオが少し騒がしい。

「この人、今年よく見たね」

母がぽつりと言い、父がそれに返す。
私は「そうだね」と頷く。

それが気まずいという訳ではない。

「仕事は三日からだっけ?」

母が思い出したように聞く。

「うん、三日から」

「そうなのね。頑張ってね」

「うん」

それ以上、話は広がらなかった。

テレビのチャンネルが変わる。紅白歌合戦が始まっていた。
懐かしい曲が流れると、少しだけ昔のことを思い出す。

途中でお風呂に入り、番組が変わったり、短い雑談を挟んだりしながら時間が過ぎていく。

気づけば、時計は十一時を過ぎていた。

「私、そろそろ部屋行くね」

そう言うと、母は

「うん、おやすみ。明日は九時にご飯の予定だからね。おせち楽しみにしてて」

と言った。

「うん、わかった。ありがとう」

自分の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。
テレビをつけると、紅白も終盤に差しかかっている。

布団に入り、音量を小さくする。画面を見ているようで、見ていない。ただ紅白でどちらが勝ったのかが気になっただけだった。

やがて、年越しの番組に切り替わる。
除夜の鐘が鳴り始める映像。

スマホを手に取り、知り合いに送る新年の挨拶を考える。
明日の昼頃でいいか。

眠い…。
音楽番組を見ようかと思っていたが、眠気の方が強いらしい。

私は布団の中で、目を閉じる。

外は静かで、二階なのもあってか、家の中も必要以上の音はしない。

今年もいろいろあったな。
来年はどうなるんだろう。
そんなことを考えながら、眠りについた。

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