そして面接当日。
場所は分かっているので、少し早めに到着し、周辺を歩きながら落ち着くために深呼吸をした。
大丈夫、大丈夫……。
いざ入る直前、やっぱり「お客」として入るのではないことが妙に怖かった。
五分前。意を決して店内へ足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
あの店員さんだ。私に気づいたようで、すぐに声をかけてくれた。
「川嶋さんですか?」
「はい、面接の予約を……」
「お待ちしてました。じゃあ杉山くん、あとはお願いね」
「はい、分かりました」
「では、こちらへどうぞ」
「はい」と返事をし、私は店員さんについて行く。
奥のカーテンを抜けた先は細い廊下で、そのうちの一室に案内された。
蛍光灯の白い光がテーブルと椅子を照らしている。流し台の上には電気ポットが置かれていた。休憩室だろうか。
「お好きな席にどうぞ。荷物は椅子に置いちゃって大丈夫ですよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「改めて、店長の吉田です。よろしくお願いします」
「川嶋夏希です。よろしくお願いいたします」
そう返事をして、私は履歴書と職務経歴書を手渡した。
「ではまず自己紹介からお願いします」
声が少し震えていた気がしたが、いつも通り答えていた自己PRを話す。
「分かりました。では、志望動機をお願いします」
「はい」
昨日あれだけ考えていたはずなのに、急に頭が真っ白になった。
「あ、えっと……」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
「すみません、ありがとうございます」
呼吸を整え、私はゆっくりと言葉を紡いだ。
「私はずっと事務系で探していました。でもなかなか採用されず……。そんな時に、こちらの求人を見かけて、気になりまして」
「どんなところが気になったんですか?」
「“ちょっとした親切な心配り”という文が……」
「そうなんですね。ちなみに川嶋さんにとって、心配りとはどんなことだと思いますか?」
「えっと、ありがとうと言ってもらえること……でしょうか」
「なるほど」
店長さんの口元が少しだけ上がった気がした。
「うちのお店は、お客様から買取した商品を販売するお仕事です。小さなものから家具のような大きなものまで幅広いですね。アルバイトの方に出張買取まではお願いしませんが、それでも接客の機会は多いです。お客様に“また来たい”と思っていただくための心配りが、スタッフには必要になります。」
「川嶋さんは接客未経験のようですが、そのあたりは大丈夫そうですか?」
「採用いただけたら、一生懸命頑張ります。最初は迷惑をかけるかもしれませんが……本当に、一生懸命やります」
「分かりました。では次の質問です。
川嶋さんは、誰かに心配りをしてありがとうと言われたことはありますか?」
「えっと、それは……」
視線が自然と下へ落ちた。
その瞬間、以前のお婆さんのことを思い出し、その出来事をゆっくりと伝えた。
店長さんは焦らせず、時間をかけて聞いてくれた。他にもいくつか質問があり、面接は終わった。
面接後、店長さんとスタッフさんに挨拶をして店を出る。
外は薄暗く、風が冷たい。寒い……。
最初のほうは「頑張ります」しか言えなかった。販売も未経験、レジも触ったことがない。本当にできるのだろうか。
でも、きちんと話せた。店長さんの柔らかい笑顔を思い出す。そして、質問から逃げずに答えられた自分を、ほんの少しだけ誇らしく思った。
そういえば、退職理由を聞かれなかった。いつも必ず聞かれるものだと思っていたから、不思議だった。
冷たい風にあたりながら、私は自宅までの道をゆっくりと歩き始めた。

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