短編・連作小説 2度目の花火大会

六月も中旬に差し掛かり、真夏とまではいかなくとも、汗ばむような夏日が増えてきた。 店内のエアコンから流れるかすかな冷気が、火照った肌にちょうど心地よく馴染む。

午後の落ち着いた静けさの中、カウンターの向こうで店長が何かを思い出したように顔を上げた。

「 お、そうだ。 話しておきたいことがあったんだ 」

ふと、そんなことを言い始めた店長。
仕事で何かあったのだろうかと、私と杉山さんが店長へ視線を向ける。

「 今年も花火大会が7月にあるから、また花火みんなで見に行くか聞こうと思ってたんだよ 」

仕事じゃなかったんですねと、思いつつ飲み込み、私は答えた。

「 昨年もなんだかんだ、楽しかったですよね 」 と私。

「 まあ、予定があれば行きませんが、それなりに人数集まって天気良ければいいんじゃないですか 」 と杉山さん。

「お、思ったより前向きで何より」

「中村くんと水谷さんも来てくれたら嬉しいな。 でも、7月だとシフト調整これからですよね 」

「 そういうこと。 それもあって先に聞いたのよ  」

「そうだったんですね」

「 まあ土曜日なら、自分と店長はほぼ出勤でしょうね 」

「 中村は今日来るから、自分が聞いておきますよ。 店長忘れそうだし」

「 ありがとう、言い方あれだけど助かるよ 」

「 いえいえ 」

「 水谷さんは、明日出勤みたいなので私が聞いておきますね 」

「 ありがとう、川嶋さん  」

そして、次の日。

「 水谷さん、おはようございます。 昨日店長が、昨年の花火大会の件で、今年の7月上旬にある花火大会またみんなで集まろうかなと考えてるみたいで。 水谷さんもどうかなとおっしゃってました 」

「 川嶋さん、おはようございます。 昨年話してくれた花火大会ですね!
気になってたんです。 ちょっと先のことなので、まだわからないのですが、行けそうならぜひ行きたいです」

「 ありがとうございます。 店長には伝えておきますね。 私も水谷さんが来れそうならとても楽しみだなと思いまして」

「 川嶋さんは行くのですか? 」

「 シフト次第ですね。 まあ、私はたぶん、予定的には空いてると思うので」

自分で口にしてから、胸の奥が少しだけチクリと痛んだ。 いつも暇な自分。 誘い合える友達の顔も、数えるほどしか浮かばない。 それを自ら証明してしまったようで、私は手元の用紙の端を、意味もなく指先でいじった。

「 ……あ、川嶋さん、もしよかったらなんですけど、今度、予定合いそうな休みの日にでもご飯行きませんか? 」

「え…」

「 実は私この前、久しぶりに橘さんと会いまして、ぜひ今度は川嶋さんと3人で行きたいねと話してたんです 」

「 え、橘さん? 」

「 実は私たち、ちょっとした知り合いなんです 」

「その時に橘さんも、川嶋さんともご飯行きたいなって言ってましたよ〜」

「 私と橘さんについては、今度ご飯の時にお話ししますよ。 3人でガールズトークしましょう〜🎵 」

思考が追いつかないながらも私は答えた。

「 はい、行きたいです。 ありがとうございます、水谷さん 」

休日にみんなでご飯か。 思えば、そうしてみたいなとは思ったことは何度もあった。
でも言い出せなかった。

わざわざ休日に誘ったら迷惑だよね。
私だけが、仲良くなれたと勘違いしているのかも。

ここはあくまでビジネスライクな場所なのだと、自分に言い聞かせて線を引いていた。

その日の午後は、残りの仕事をこなしている間も、胸の奥が少しあたたかく、ウキウキとしていた気がする。


あとがき

休日の予定がなくても、自分では困らないけど、予定がたくさんある人を羨ましく思う時はあります。

大人になると特に、友人を久しぶりに誘ってご飯に行きたいと思っても、なかなか誘えない事ってありますよね。

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