5巻 昔の私へ、今の私より 川嶋夏希シリーズ 「日常編」 21話〜30.5話

第21話 秋薔薇

朝、いつものようにテレビをつけたまま朝食をとっていた。
天気予報の後、地域の話題を紹介するコーナーが始まる。

画面には色とりどりの秋バラが映り、アナウンサーが「今週末あたりがちょうど見頃です」と笑顔で伝えていた。

「きれいだな」

と、思わず声に出す。
夏の花ほど強く主張しないのに、凛とした美しさがある。

休日に出かける予定はなかったけれど、なんとなく気になって、番組が終わってからネットで検索してみた。

「秋 バラ園 東京」

写真をいくつか眺めて、アクセスを確認する。

「電車で1時間くらいのところがある……行けそうだな」

天気予報を見ると、次の休みは晴れ。その瞬間、自然と決めていた。

「次の休み、行ってみよう!」

そして休日。
朝から青空が広がっていた。

風は少しひんやりしているけれど、日差しはやわらかく、ちょうどいい気温だ。
夕方から寒くなるかもしれないと、上着をリュックにしまって持ってきていた。

最寄り駅から乗り換え、バスに乗って1時間ほどで目的の庭園に着く。

駅から少し歩くと、正門の前に「秋バラフェア開催中」の看板が出ていた。

チケットを買って入ると、ふわっと甘い香りが風に乗って漂ってくる。

「わぁ……」

思わず声がこぼれた。

園内には、赤やオレンジ、淡いピンクや黄色のバラが整然と並んで咲いていた。

真夏の眩しい光の中で見る花とは違って、秋の光は柔らかく、どの花も穏やかに息づいているようだった。

通路を歩きながら、名前のプレートを眺める。

「ピース」

「ブルームーン」

「ローズ・オブ・ホープ」

……どれも少し詩的な名前で、名札を読むだけでも楽しい。

写真を撮る人、スケッチブックを広げる人、手をつないで歩くカップル。
平日ということもあって、人は多くない。

それでも、みんなそれぞれのペースで花を楽しんでいた。
奥のほうに進むと、湖が見える広場に出た。
ベンチの周りでは、ひとりでお弁当を広げている人の姿もちらほら。
静かに音楽を聴いている人、本を読んでいる人。

みんな、思い思いにこの時間を過ごしている。

私も木陰のベンチを見つけて腰を下ろし、お弁当を取り出した。

「落ち着くな」

少し風が吹いて、湖の水面がきらきらと光る。
遠くで鳥の声がして、バラの香りがかすかに混ざった。

しばらく湖を眺めていた。
風が頬にあたるたびに、夏の名残を少しずつ手放していくような気がする。

「いつの間にか冬になってそうだな」

今年の夏は、屋上で花火を見た。

派手なイベントではなかったけれど、あの夜の風と笑い声を思い出すと、不思議と胸の奥が温かくなる。

季節は、いつの間にか次へ進んでいる。
誰かと一緒でも、ひとりでも、ちゃんと時間は積み重なっていく。

帰り道、売店で小さなバラの栞を買った。

「部屋に飾ろうかな」

薔薇や庭園の写真もたくさん撮った。
今日見た景色の余韻は、しばらく心の中に残っていそうだ。

来る時に気になっていたカフェに寄って、ランチセットを注文する。
ハヤシライスとサラダのセット。

お花が添えられていて、聞けばこの時期限定のメニューらしい。
とても美味しかった。

夕方の電車に揺られながら、少し疲れた身体の中に、静かな充実感があった。

特別な出来事ではなくても、こんなふうに行ってよかったと思える時間を、これからも重ねていけたらいいな。


あとがき

秋バラは、夏の花のような勢いはないけれど、柔らかい光の中で咲くその姿は、どこか落ち着いた強さを感じさせます。

川嶋さんにとっても、ひとりで過ごす休日が寂しさではなく、心を満たすものになっていたらいいなと思いました。

私は期間限定と言われると、どうしてもそのメニューを頼んでみたくなってしまいます。

このようなランチに出会えるのも、お出かけのいいところかもしれません。


第22話 秋といえばお芋

開店前の店内。
開店準備を始めていると、扉が開いて水谷さんが入ってきた。

「おはようございます、川嶋さん。これ、みんなでどうぞ」

そう言って紙袋を差し出す。中には、小さな箱がひとつ。

「徳島に行ってきたので、おみやげです。鳴門金時のおまんじゅう」

「ありがとうございます。美味しそうですね。」

「休憩の時にでも食べてね〜」

そう言った後、水谷さんはバックヤードへ向かった。
私もレジの確認を終え、店内の照明をつけた。

今日も一日が始まる。

開店後しばらくして、業務がひと段落した頃。
水谷さんがふと思い出したように言った。

「徳島は鳴門金時のお芋が有名みたいでね。現地で焼き芋を食べたの〜」

「へぇ、現地のは違うんですか?」

「私普段は焼き芋食べないから比べられないけど、甘みがあってスイーツみたいで、とても美味しかったわ」

「いいですね!」

「今日のお昼休憩、楽しみです」

「そう言ってもらえると私も嬉しいわぁ」

平日の店内は落ち着いていて、ゆっくりと時間が流れていた。
古い玩具の汚れを拭き取りながら、ふと水谷さんが言う。

「秋といえば、やっぱりお芋ですよね」

「ですね。スーパーにも焼き芋コーナーありますよね」

「私、買ったことなくて」

「そうなんですか。鳴門金時にはかなわないですけど、美味しいのでぜひ」

「なら買ってみるわね」

「あとスイートポテトも好きですけど、焼き芋は芋そのままの味がするから特に好きです」

「スイートポテトなら私、昔作りました。子どもが小さかった頃喜んでくれたので」

「そうだったんですね。手作りいいですね」

そんな他愛もない会話をしながら、商品を磨いたり、買取表や伝票を整理したり。店の外では、少し強めの風がガラスを鳴らしていた。

「今日は風が冷たいですね」

「朝も少し寒かったです。もう秋なんだなって思いました」

「秋の空気って、なんか静かで好きです」

昼が近づいてきた頃、杉山さんが出勤してきた。

「おはようございます」

「おはようございます。水谷さんが徳島のおみやげ、持ってきてくれましたよ」

「そうなんですか。ありがとうございます」

「鳴門金時のおまんじゅうです」

「お芋系ですか。いいですね。昔は焼き芋食べたりしてたけど、最近食べてないですね。休憩の時にいただきます」

「ぜひぜひ〜」

「では私はこれで。お疲れさまでした〜」

水谷さんが手を振って帰っていった。

「スイートポテトも好きですけど、焼き芋は芋そのままの味がするから特に好きです」

と、川嶋さんがさっきの会話を杉山さんにも話すと、杉山さんは少し笑って言った。

「なんか、川嶋さんっぽいですね」

「どういう意味ですか?」

「甘い話してるとき、いつも楽しそうにしてるので」

「え、そうですかね?」

そういえば、徳島の観光のこと聞けなかったな。今度聞いてみようかな。

お昼になって、おまんじゅうをいただいた。
しっとりした生地の中に、やさしい甘さの芋あん。
お茶と一緒に食べると、ほっとする味だった。

「よし、午後も頑張ろう」

小さくつぶやいて、私は店内のドアノブを回した。


あとがき

秋になると、どうしてもお芋の話題が増えてしまいますね。
甘くてやさしい味は、それだけで心がほっとするような気がします。

川嶋さんにとっても、こうしたちょっとした出来事がお仕事を頑張れるきっかけになっているのかもしれません。


第23話 季節の変わり目と美容院

世間的には、もうすぐクリスマスかぁ。
休日、美容院の予約をしていた。

向かう途中、街のあちこちが赤と緑に染まっている。
雑貨屋さん、スーパー、お花屋さんなど。
ハロウィンが終わった次の日から、街は一気にクリスマスモードになる。

うちの店はハロウィンでは特に何もしなかったけれど、クリスマスには小さなツリーを飾る。

あとは、昨年のクリスマス時期の買取品を棚に並べる。
そういうものを出すと、なんとなく年末の気配を感じる。
きっと、あっという間に年が明けるんだろうな。

美容院に着くと、いつもの担当の方が笑顔で迎えてくれた。
私はもう何年も、この方にお願いしている。

話しやすいというより、余計なことを聞かれない感じが、ちょうどいいから。

「今回も前回と同じ感じでよろしいですか?」

「はい、それでお願いします。」

まずはカラー。
少しだけ目立ちたくないので、いつも落ち着いた濃い茶色にしている。
カラーが終わるまでの時間、タブレットで雑誌を読むこの時間が好きだ。

その後にシャンプーとカット。
ハサミの音やドライヤーの風の音を聞きながら、鏡越しの自分を見る。

鏡越しに見える自分は、少しだけ明るい顔に見えた。
担当の方は、髪のことは丁寧に話してくれる。

「最近どうですか?」

みたいな雑談はほとんどない。

でもそれが、私にはありがたい。

時々思う。
仕事では人と普通に話しているのに、こういう場所では、うまく言葉が出てこない。

まだ自分は、ちょっとだけ人付き合いが苦手な人なのかもしれない。
でも、今はそういう自分も受け入れているから。

プライベートをガツガツ聞かれるのは少し苦手だ。
私の年齢だと、彼氏、結婚、子供の話題になることが多いから。

美容院のツリーを見ながら思う。
今年のクリスマスも、何もないのかな。

……でも、何かひとつくらい、クリスマスっぽいことをしたいな。

軽いショッピングを済ませた帰り道。
駅前のケーキ屋さんに寄った。

ショーケースには、華やかなクリスマスケーキが並んでいる。

限定のデコレーションケーキも可愛かったけれど、私はあえてショートケーキをひとつだけ選んだ。

「今日はこれで、十分かな」

なんとなくまだクリスマスの気分にはなれなかった。

家に帰って、温かいお茶と一緒に食べよう。
そう思ったら、少しだけ心が軽くなった。

ツリーの明かりを見ながら、静かな一日が、少しだけ特別な日に変わった気がした。


あとがき

美容院でも、その人らしい距離感や安心感がある。
今は静かにしたい、お話したい、上手な人がいい、などを選べるお店も増えましたね。

同じ美容院に通う人、気分で変える人。
どちらにも、それぞれの居心地があるんだと思います。

そんな帰り道に、小さなケーキが加わるだけでもちょっとしたご褒美の時間になるかな。

そんな穏やかな時間を書きたくて、このお話にしました。


第24話 迷子の男の子

今日は昼過ぎまで仕事だった。
店長が急遽出張買取で不在のため、午前だけの出勤になったのだ。

杉山さんが

「通しでやりますよ」

と言ってくれたけれど、私は

「夕方に歯医者があるだけなので、午前中出ます」

と店長に申し出ていた。

そんなわけで、歯医者までの時間つぶしにカフェで小説でも読もうと思いながら歩いていた。

働いた分、ケーキでも食べたいなと思いながら。

冬の空気はきりっと冷たいのに、日差しだけは優しくて、頬に当たる光が心地よかった。

交差点を渡ろうとしたとき、小さくしゃくり上げる声が耳に触れた。
歩道の端で、赤いニット帽をかぶった男の子がひとり俯いている。

手にはプラレールをひとつ、ぎゅっと抱えていた。
5歳くらいだろうか。

声をかけるべきか迷った。
変に思われないだろうかと。

それでも、それ以上に放っておけなかった。

「どうしたの?」

そう声をかけると、男の子は涙目のまま私を見上げた。

「……良平がいないの」

良平?

お父さんかな。

でも「パパ」や「お父さん」と言わなかったことが、少しだけ気になった。

「君、名前は?」

「コウタ」

小さく震える声でそう答えた。

スマホを持っているか聞いてみたが、持っていないらしい。

「じゃあ、交番に行ってみようか?」

そう提案すると、コウタは涙をこすりながら言った。

「……公園に行くつもりだった」

「そっか。どこの公園かわかる?」

「……わからない」

「じゃあ、とりあえず近くの公園に行ってみようか。それでしばらく待っても来なかったら、交番に行こうね」

こくりとうなずいたので歩き出した。
泣き止んでくれたことで、ひとまずほっとする。

どうしたら安心してくれるだろうと考え、話題を探した。
ふと、抱えているプラレールが目に入った。

「それ、プラレールだよね。……はやぶさ、好きなの?」

その一言で、コウタの目がぱっと明るくなる。

「うん! はやぶさすき!」

「私も少しだけわかるよ。はやぶさ、かっこいいよね」

そう言うと、コウタは胸を張るように笑った。
その笑顔が見られただけで、胸がすっと軽くなった。

地図アプリを見ながら近くの公園に着く。
探し回ってまた迷子になったら大変だし、一度この公園で待つことにした。

「寒いでしょ。あったかいお茶、飲む?」

自販機で買ったペットボトルを渡すと、

「ありがとう」

と小さな声が返ってきた。
コウタは公園で遊んだり、戻ってきては私と話したりしていた。

そして40分ほど経ち、私も寒くなってきたので、そろそろ交番へ向かうべきかと考えていた。

そのとき

「コウター!」

大きな呼び声が響いた。

コウタが顔を上げる。

「あ、良平かも!」

次の瞬間、コウタは駆け出していた。

「良平ー!!」

「コウタ!? よかった……本当に、よかった……!」

駆け寄ってきた男性は、焦りがほどけるようにしゃがみ込み、コウタを強く抱きしめた。

見たところ30代半ばだろうか。

黒髪に黒縁メガネ。
杉山さんよりは少し年上に見える。

「すみません……! 途中ではぐれちゃって、ずっと探してて……」

「いえ。見つかってよかったです」

胸をなでおろしたのは、たぶん私も同じだった。

「あの、なにかお礼を……」

「あ、大丈夫です。私、今日は暇でしたので。それに、コウタくんとお話できて楽しかったので」

そう言うと、コウタはこちらを見て、

「なつき、ありがとう!」

「またね、コウタ」

「あの、本当にありがとうございました」

良平さんは深々と頭を下げた。

「いえいえ。お役に立てて良かったです」

嬉しそうなふたりを見ていたら、それ以上何を言えばいいのかわからなくて、私は軽く会釈してから歩き出した。

振り返ってコウタにも手を振る。

もう少し話すべきだったかな、と少しだけ後ろ髪を引かれる気持ちもあったけれど、そこまでの勇気は出なかった。

まだ時間あるし、予定通りカフェでケーキ食べようかな。

向かう途中、胸の奥がほんのり温かく感じた。
少しでも誰かの役に立てたことが、嬉しかった。


あとがき

思いがけず人を助ける場面に出会うとき、声をかけるか、かけないか。
川嶋さんは声をかけたことで、少しだけ誰かの力になれました。

その出来事は、大げさなヒーローみたいなことではありません。

ほんの小さな偶然でも「自分にもできることがある」と思えた瞬間は、確かに自信へと繋がっていく。

川嶋さんも、少しずつ、変わっていっているのかもしれませんね。


第25話 冬服と毛布

朝、起き抜けに窓を開けると、ひやりと冷たい空気が部屋に入り込んだ。

思わず肩をすくめながら「今日は寒いな…」と思わず呟く。

冬が始まる直前の、この判断の難しい季節があまり得意ではない。
寒いとも言えるし、まだ秋だとも言える。

真冬のコートを着るには早い気がするけれど、薄手のジャケットだと心許ない。

鏡の前でじっと立ち尽くして、首元にマフラーを当ててみる。

「うーん、さすがにまだ早いか…」

外したマフラーをベッドの端に置くと、そこには薄い布団と少しだけ厚手の冬布団が重ねられていた。

夜は寒い。
でも完全な冬布団に変えると、たまに暑い日もあって寝づらい。

(いつ切り替えたらいいんだろう…毎年これで迷うんだよね)

そんなことを思いながら、風邪ひくよりはいいかと、結局厚手のコートを羽織って家を出た。

家を出て駅までの道を歩きながら、すれ違う人の服装をなんとなく眺める。
薄手のカーディガンの人、マフラーを巻いている人、ダウンコートを着ている人。

(同じ気温なのに、こんなに違うんだ…)

吐く息が白くなるほどではないけれど、風は冷たい。
自分のコートが急に正解でもあり、間違いでもあるような気がしてくる。

朝、出勤するとバックヤードの空気がひんやりする。
寒くなってくるとこれが嫌なんだよな、と思いながら開店準備を進めていると、店内は少しずつ暖かくなっていく。
暖房の温かみがじんわりと体にしみる。

今日は杉山さんが来るまで一人だ。
頑張ろう、と自分に言い聞かせ、午前中の仕事に集中した。

幸い、トラブルはなかった。

正午近くになり、杉山さんが入ってくる。
いつもの落ち着いた雰囲気で挨拶してくれた。

「川嶋さん、おはようございます。今日は割と暖かいですね」

あっさりした口調に、思わず

「え?」

と声が漏れた。

「暖かいですか?」

「この時間だと昼だし陽が出てますからね。コート薄手にしたけど、日差しが強いので暑いくらいでした」

(そうなの…?)

驚きがそのまま表情に出たのか、杉山さんは少し笑った。

「川嶋さんは、寒かったんですね」

「はい。朝の空気がすごく冷え込んでて…冬のコート着てきちゃいました」

「いいと思いますよ。風邪ひくのが一番だめですし。朝出勤だと寒いですよね」

「そうですね。でも杉山さん、薄手のコートじゃ帰り寒いんじゃないですか?」

「まあ確かに。まあでも俺はそこまで寒がりじゃないので大丈夫かと」

羨ましいなと思った。

せっかくなので布団の話も聞いてみる。

「家ではもう冬用の毛布出してます?」

「いや、まだですね」

「寒い日ないですか?」

「寝れば温まりますよ。逆に厚いと寝にくくて。でも時期的にそろそろ出さないとな、とは思いますけど」

(寝れば温まる……私はなかなか温まらないんだよな)

「寒いと、なかなか眠れないですか?」

「はい。私冷え性なので足先が冷えると、本当に眠れなくて…」

「それは辛いですね」

季節にいちいち振り回されている自分が、少しだけ悲しく思えてくる。

「男の人はそこまで寒さ気にしないんですかね?」

「まあ、俺はそうかもしれないですね。寒がりな人もいるとは思いますけど。あ、中村くんは寒がりと前に言ってましたよ」

「そうなんですね。中村くんには今度聞いてみます。中村くんは時間的にも会う機会が少ないので」

「まあ大学生だから、休日以外基本遅番ですからね」

「ですね」

こうして私たちは仕事に戻った。やることはたくさんある。
少しずつ手分けして業務を進めていった。

夜、仕事を終えて外に出ると、昼間より風が冷たくなっていた。

(やっぱり寒い…冬のコートでよかった)

杉山さんは遅番だし、あの薄いコートじゃ寒いんじゃないかな、と少しだけ心配になる。

いつもと同じ道を歩きながら、帰宅して布団を見つめた。

今日は薄い毛布も重ねよう。私は寒がりだから、無理しない。
季節の境目の迷いは毎年やってくるけれど、人それぞれなんだな、と静かに思った。


あとがき

この時期の服装は本当に迷いますよね。布団も含めて。
時々、真冬でも半袖の人を見かけます。
雪が降りている日でも。

皆さんが育った環境もあるのかもしれません。
寒さの感じ方も違うし、体質も違う。

本当に人それぞれだなと思いました。


第26話 大掃除

カレンダーを見る。今は十二月の上旬。
もうすぐ一年が終わる。早いような、長かったような。

そんな気持ちが、毎年この時期になると顔を出す。

年末の掃除は嫌だなと思いつつ、少しずつ始めておいたほうが気は楽だとは思う。

外は冬らしい青空。
冷たい空気の中にも、どこか澄んだ光がある。

今日は休日。

大掃除と言うほどではないけれど、気になっていたところを少しずつ片づけようと思った。

まずは窓を拭く。
指先が冷たくて、途中で何度か息を吹きかける。
でも、ガラスが少しずつきれいになっていくのがわかる。

カーテンも洗濯機にかけた。
陽が出ている間に干してしまおう。

お昼ごはんの時間。
温かいお茶を淹れて一息。テーブルの上には、温めた冷凍のお弁当をいただく。

もうひと頑張りしようとつぶやく。

そして午後は、玄関の掃除をして、台所も終わらせた。

やっぱり私は、やり始めると止まらないタイプだなと思う。
さすがに疲れてきたので、十五時ごろにはやめた。

少し早いけれど、お湯を沸かしてお風呂に入ろう。
入浴剤を入れて、ゆっくり湯船につかる。

あぁ、気持ちいいな。

疲れがじんわり取れていく感じがする。

お風呂から上がると、カーテンを確認する。
まだ少し湿っていたけれど、まあこのくらいならこれから暖房をつけるから大丈夫そう。

外はすっかり暗くなっていた。
この時期は、本当に日が落ちるのが早い。

窓の外の明かりを一瞬だけ見て、私はカーテンをゆっくり閉めて暖房をつける。

今日はお疲れ様でした。


あとがき

クリスマスや年末の空気が少しずつ近づくと、大掃除の事を考え始めます。窓を拭いたり、カーテンを洗ったり。

少し休んで、ご飯を食べつつお茶を飲む。
でも掃除をした後は少しだけすっきりした気分になりますね。


第27話 特別じゃない・クリスマスイブ

今日はクリスマスイブ。
今年は平日で、仕事の日。

朝、いつものように支度をして家を出る。
駅までの道も、乗り慣れた電車も、変わらない日常。

ただ、頭のどこかで、今日はクリスマスイブなんだと分かっているだけだった。

お店に着いて、開店準備を始める。
開店準備は私ひとり。しばらくすると店長が出勤する。

シャッターを上げ、レジを立ち上げ、引き継ぎ事項を確認し、棚を軽く整える。

この開店前の静けさは、今では嫌いじゃない。

初めて開店作業を一人で任された時、この静けさが怖かった。
間違いがないのか、きちんとできているのか。
そればかりを心配していたから。

休憩室に、以前お店で買ってきたクッキーを置く。
クリスマス柄の簡易な包装。
値段も、気を遣わせないくらいのもの。

「ご自由にどうぞ」

そう書いたメモを添えるまで、ほんの少し迷った。
余計なことだと思われないかな、とか。

それでも、今日はクリスマスイブだし。
いつも皆さんにお菓子をいただいているし、いいよね、と。

さすがにメリークリスマスと書くのはやめておいた。

開店後、やはりそこまで混むことはなかった。
しばらくして、店長がドアから顔を出す。

「おはよう、川嶋さん。あとクッキーありがとう。あとでいただくよ」

と、いつもの調子で言う。

「はい、ぜひ」

そうして午前の内容を店長に伝え、業務に戻る。

午後になり、杉山さんも出勤する。

「皆さんお疲れ様です。あと川嶋さん、クッキーありがとうございます。後でいただきます」

「はい、ぜひ召し上がってください」

大したことじゃない。
それでも、2人からお礼を言われたので、なんとなく嬉しかった。

すると店長が、

「今日はクリスマスだね。まあ、うちの店はクリスマス後の方が忙しいからね。世間的には年末の大掃除で、いらないものが出てくる事も多いし」

「買取店だと、そうなっちゃいますよね」

「まあ、期間が短いとはいえ、うちの店が年末年始休みだからというのもありますけどね」

と杉山さん。

「そうそう。年明けの出張買取もすでに何件か予約入ってるから応援も頼んであるよ。まあそんなわけで、メリークリスマス!」

「メリークリスマスと何も引っかかってないですけど。あと今日はクリスマスイブなので、正確には明日がクリスマスです」

「まあまあいいじゃない、杉山くん。硬いこと言わないの」

いつもの雰囲気に、私は少しだけ笑ってしまった。

「ほら、杉山くん仕事するよ。川嶋さんは休憩どうぞ」

「はい、ありがとうございます。休憩いただきます」

そして私は休憩室に向かう。

午後は買取も多く忙しかったが、三人いたので、店頭販売や商品加工も含め、特にトラブルもなく終えることができた。

夜になり、遅番の中村くんと入れ替わる時間。
彼も休憩室のクッキーに気づいたらしく、

「お疲れ様です。川嶋さん。クッキーいただきました。ありがとうございます。」

と、お礼を言ってくれた。

「いえいえ。わざわざお礼ありがとう」

中村くんまでお礼を言ってくれるとは、とまた少し嬉しくなった。

帰り道を歩きながら、ふと、昔の自分を思い出す。
体調を崩し、気持ちも落ち込み、退職した頃。
人と話すことが、とにかくしんどかったあの頃を。

あの頃のクリスマスは、ただの騒がしい日だった。
街の音も、光も、楽しそうにしている人たちも。
全部が重たく感じて、早く終わってほしいとしか思えなかった。

でも今、こうして街を歩いていると、きちんとクリスマスだなと感じる。

ケーキの臨時販売、イルミネーション。
大きな街ではないけれど、それでも十分にクリスマスだった。

せっかくだし、ケーキ買って帰ろうかな。

そう思って、近くのスーパーに寄る。
チキンは少し量が多い気がしたので、唐揚げ弁当にした。

袋を提げて歩きながら思う。

クリスマスが特別じゃなくても、私も少しだけ、変われたんだなと。

そんなクリスマスイブだった。


あとがき

今年のクリスマスは平日クリスマス。
特別なことをしなくても、自分が満足できるなら、それでいいのではないかと思います。

最近、川嶋さんシリーズの過去編を投稿するようになりました。

その流れの中で、今の川嶋さんならではのクリスマスのエピソードを書いてみたいと思い、このお話が生まれました。


第28話 実家に帰ることにした年の暮れ 前編

クリスマスが終わり、街の雰囲気が少しずつ年末に切り替わってきた。

スーパーにはお正月用の食材が本格的に並び始め、テレビからは今年を振り返る音楽番組が流れる時期。

私の部屋も、十二月からこつこつと続けてきた大掃除が、ようやく一段落したところだった。

十二月中旬、母からメールが来ていた。

「年越しは帰ってこないの?」

それだけの、短い文章。
すぐに返事をする気になれず、しばらく画面を閉じたままにしていた。

帰れば、近況を聞かれる。
体調のこと、仕事のこと、これからのこと。
悪気がないのは分かっているけれど、今はあまり深く話したくなかった。

迷った末、大晦日一泊だけすることにした。

元旦のお昼頃に帰ります、と。

私が精神的に一番しんどかった頃、仕事もままならなかった時期、両親には随分と助けてもらった。

無職の中、生活のことなど何も言わずに受け止めてくれた。
それでも、その何も言わなさが気まずくて、私はここの仕事が安定してきた頃、家を出た。

本来なら、結婚や相手について聞かれてもおかしくない年齢だ。
けれど両親は、いつの間にかその話をしなくなった。

今は、とりあえず私がきちんと仕事をしていることに、安心しているようだった。

今の家で一人暮らしを始めて、気がつけば一年が経っている。
気まずさは残っているものの、会えば普通に話はする。
自宅からもそれほど遠くないため、数か月に一度、家族で外食をすることもある。

ただ、特別に仲がいい家族というわけではない。
それでも、年末くらいは顔を出したほうがいいのかもしれない、と思った。

仕事始めは三日から。
二日は家で、できるだけ静かに過ごしたかった。
だから泊まりは一泊だけにした。

中学や高校の旧友とも疎遠で、あまり長くいても仕方がない。
そのことを伝えると、母はそれでもいいと言ってくれた。
手土産をどうするか少し迷って、年越し蕎麦と和菓子を買うことにした。

派手なものではないけれど、毎年決まって食べるものだから、かえっていい気がした。

実家までは電車で四十分ほど。
普段なら少し面倒に感じる距離だけれど、今日は不思議と遠く感じなかった。

改札を抜けると、駅前は思ったより静かだった。
電車に揺られながら、窓の外をぼんやり眺める。

見慣れた景色が流れていく。

2か月に一度くらいは、実家に顔を出している。
両親とご飯を食べて、少し話して、自宅に帰る。
でも泊まることは、ほとんどなかった。

久しぶりの「帰省」と呼ぶほどでもない帰省。
今日は、大晦日だ。

最寄り駅に着き、改札を出る。
冷たい空気が頬に当たり、思わずコートの前を閉じた。
手に持った袋の中で、蕎麦と和菓子が静かに揺れる。

実家のある方へ歩き出す。
この道を歩くのは、何度目だろう。
大きな街ではないから、年末の賑わいも控えめだ。

それでも、店先の正月飾りや、少し早足で歩く人たちに、年の瀬を感じる。

懐かしいというほどでもなく、緊張するわけでもない道。
ただ、少しだけ背筋が伸びる。

角を曲がると、見慣れた家が見えた。
築三十年以上の二階建ての一軒家。

私が小学生の頃に、両親がローンを組んで建てたらしい家。

まだ家の中に入ってもいないのに、「ああ、帰ってきたんだな」と思った。

そして、一呼吸置いてから、インターホンを押した。


あとがき

年末の過ごし方には、本当にいろいろな形があるなと思います。
実家に帰って家族と過ごす人もいれば、仕事をしている人。

一人で静かにテレビや動画を見ながら年を越す人、オンラインで友人や知人とつながる人もいる。

川嶋さんにとっての年末も、その中の一つのような気がして、このお話を書きました。中編に続きます。


第29話 実家での大晦日 中編

インターホンを押すと、すぐにドアが開いた。

「夏希、久しぶり。外寒かったでしょ」

「うん、久しぶり。でも大丈夫。お邪魔します」

「そこは、ただいまでしょ」

「確かにそうだね」

玄関に上がり靴を脱ぎ、手にしていた袋を差し出す。

「これ、連絡したお蕎麦と和菓子」

「ありがとう。夜にお蕎麦作るわね」

居間に入ると、テレビがついていた。

年末の特番が流れていて、父は畳の上に座布団を敷いて横になっていた。

「おお、おかえり」

「ただいま」

いつも通りの少ない会話。

昔からこうだった。

「とりあえず部屋に荷物置いて、のんびりしててね。少し早いけど、五時ごろご飯にするわね。年越しそばは遅めに食べましょう」

「うん、ありがとう」

軽い荷物を持ち、二階の自分の部屋に向かう。

二階建てだけど、三人で暮らすには少し手狭な家。

それでも、私が小学校高学年になった時、両親は私に一部屋をくれた。

派遣の仕事で一人暮らしを始めた時も、この部屋はそのままだった。

引っ越す時に荷物はだいぶ減らしたけれど、昔の本やアルバム、もう着ない服だけは実家に置いてきた。

この部屋の中は、あの頃とほとんど変わらない。
物の配置も、空気の感じも。
おそらく、定期的に掃除をしてくれているのだろう。
そのことに、ありがたさと、少しだけ居心地の悪さを同時に感じる。

ベッドに腰を下ろす。
知らない場所じゃないのに、自分の居場所でもない。

一年前まで、確かにここで暮らしていた。

ベッドで寝転んでいると、一階の台所から料理をする音が聞こえてきた。

母が晩ご飯の準備をしているのだろう。
五時が近くなってきた頃、母が大声で私に声をかけた。

「夏希、そろそろご飯できるよ」

三人分のご飯が並ぶ。変わらない茶碗。
いつもより少しは豪華にしてくれているのだろうと感じる食卓。
自分で作らなくても出てくるご飯。

「いただきます」

そう言って、箸を取る。

久しぶりに食べる母の手料理は、懐かしい感じがして美味しかった。

テレビでは、年末の特番が流れている。
芸人さんのグループが並んでいて、スタジオが少し騒がしい。

「この人、今年よく見たね」

母がぽつりと言い、父がそれに返す。私は「そうだね」と頷く。
それが気まずいという訳ではない。

「仕事は三日からだっけ?」

母が思い出したように聞く。

「うん、三日から」

「そうなのね。頑張ってね」

「うん」

それ以上、話は広がらなかった。
テレビのチャンネルが変わる。紅白歌合戦が始まっていた。

懐かしい曲が流れると、少しだけ昔のことを思い出す。

途中でお風呂に入り、番組が変わったり、短い雑談を挟んだりしながら時間が過ぎていく。

気づけば、時計は十一時を過ぎていた。

「私、そろそろ部屋行くね」

そう言うと、母は

「うん、おやすみ。明日は九時にご飯の予定だからね。おせち楽しみにしてて」

と言った。

「うん、わかった。ありがとう」

自分の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。

テレビをつけると、紅白も終盤に差しかかっている。

布団に入り、音量を小さくする。
画面を見ているようで、見ていない。

ただ紅白でどちらが勝ったのかが気になっただけだった。

やがて、年越しの番組に切り替わる。
除夜の鐘が鳴り始める映像。

スマホを手に取り、知り合いに送る新年の挨拶を考える。
明日の昼頃でいいか。

眠い…。

音楽番組を見ようかと思っていたが、眠気の方が強いらしい。

私は布団の中で、目を閉じる。
外は静かで、二階なのもあってか、家の中も必要以上の音はしない。

今年もいろいろあったな。

来年はどうなるんだろう。

そんなことを考えながら、眠りについた。


第30話 元旦 後編

新年か。

結局あのまま寝ちゃったのか。
そう心の中で呟きながら、目を覚ました。

目覚ましよりも早く目が覚めた。

支度をしつつ、九時が近いのを確認して居間へ向かった。

テーブルには、お雑煮とおせち料理が並んでいた。
お重ではなく、スーパーで買ったものをそれぞれお皿に取り分けてある。
少しだけサラダも添えられていて、いかにも母らしい組み合わせだと思う。

「おはよう」

「あ、夏希、おはよう。時間通りね。ご飯できてるわよ」

「うん、ありがとう。あけましておめでとう」

「おめでとう」

と父が言う。

「あけましておめでとう。今年もよろしくね。さあ、朝ご飯にしましょう」

三人で「いただきます」と言って、静かに食べ始める。

テレビでは新年の特番が流れていて、にぎやかな音だけが部屋に満ちている。

誰かが何かを言えば返すけれど、会話は多くない。

箸を取って、お雑煮を一口すする。出汁の味が口に広がった。
特別な材料を使っているわけではないお雑煮。

懐かしい、という言葉が一番近い気がした。

スーパーのおせちはやはり甘かった。
この時期のかまぼこも弾力があり美味しい。

食べ終えたあと、自然と立ち上がってお皿を洗う。

実家に帰ると、こういう役回りはいつも私だ。
このくらいはやらないとと思った。

水の音を聞きながら、ぼんやりと今日の予定を考える。

やっぱりあそこに行こうかな。

「夏希、今日はどうするの?」

「お昼前には、出ようかと思って。お昼も今食べたから大丈夫」

そう伝えると、母は「そう」とだけ言って頷いた。

「まあ仕事もあるものね。またいつでも来てね」

「うん、また来るよ」

引き止められもしないし、急かされもしない距離感。
それまでは、それなりの雑談をして過ごした。

コートを着て、両親に挨拶をし、家を出る。
荷物はリュックのみなので軽かった。

駅までは少し遠回りになるけれど、途中に小さな神社がある。
せっかくだから、今年はそこで初詣をしようと思っていた。

住宅街の中にあるその神社は、元旦にもかかわらず思ったよりも人が少なかった。
並ばずに参拝できる程度の混み具合で、少しほっとする。

賽銭を入れ、手を合わせる。

昨年のことを振り返り、今年の抱負も伝えた。

参拝を終え、駅へ向かう。
電車に揺られながら、LINEの挨拶が来ていた数人に返事を返す。

職場だと、水谷さんから可愛いスタンプで挨拶が送られてきていた。
そして友人からも数人、久しく会えていない人もいた。

少しずつ自分の生活に戻っていくのを感じる。
駅からいつもの道を歩く。

外は夕方でも暗くなっていた。
途中でスーパーに寄り、必要なものだけを買った。

自宅に着き、電気をつける。
誰もいない部屋は静かで、実家とはまた違う落ち着きがあった。

お風呂を沸かし、その間に買ってきたお弁当を広げる。

一口食べて、ようやく肩の力が抜けた気がした。

たった一泊の帰省。

どちらも自分の居場所だけれど、今はここが落ち着くのかもしれない。
そんなことを考えた元旦だった。


あとがき

あけましておめでとうございます。
今回年末との事で、リアルタイムで3編に分けて投稿してみました。

川嶋さんにとって、2026年が良い一年になりますように。


番外編 1月2日の店長 30.5話まで終えてのあとがき

店の開店は明日からだが、昼過ぎに少しだけ店舗と倉庫に顔を出した。
送り買取の状況を整理しておきたかった。

「さてさて、どんな感じかな」

シャッターを上げて倉庫の中に入ると、ひんやりとした空気が肌に触れる。
寒いな、と一瞬思ったが、すぐ出るのだからと暖房は入れなかった。

倉庫を覗く。

……やっぱり、それなりに来てるな。

箱をいくつか開けながら、大きなものと小さなものをお客様別に分けていく。

大きな荷物は今日は手をつけない。
小さなものだけを選び、箱にまとめて店舗へ運んだ。

この作業を少し進めておくだけで、明日の二人の負担はだいぶ減るはずだ。

作業時間は三十分ほど。

「よいしょっと」

荷物を置き作業を終え、店内を見回す。

営業していない店は静かで、いつもとは違う顔をしている。

この店舗も、少しずつ人が増えた。

以前は他店へのヘルプや応援に出ることも多かったが、今はある程度、二人体制で回せるようになってきた。

通販業務もあるから、仕事が手空きになることはほとんどないけれど。

アルバイトの人たちにも、感謝しないとな。
新年早々、出勤してもらうことになるし。

箱を所定の場所に置き、電気を消す。

明日から、またいつもの日常が始まる。

よし。仕事終わったしビールとつまみ買って帰るか。

と心の中で呟いて店を出た。


あとがき

私が川嶋さんシリーズを投稿し始めて、五ヶ月が経ちました。
過去編はカウントせず、年末年始の話でちょうど三十話になります。

これは偶然なのですが、ひと区切りという意味でも、少し嬉しい気持ちになりました。

二十話まで書き終えた頃、何か新しいことを始めたいと考えるようになりました。

その一つが、過去編です。

二十話までを書き切ったあと、通常の話も投稿しながら、少しずつ進めていきました。

川嶋さんシリーズは、日常を描く物語です。
あまり根本的な部分を変えてはいけないと意識しつつ、過去編を執筆してきました。

川嶋さんがどんな人なのか。

過去編を書いてきたからこそ、私自身も以前より、川嶋さんという女性がどんな人なのかを、少しずつ掴めてきた気がしています。

店舗で働く人たちも同じくです。

今の目標は、過去編を完結させ、川嶋さんシリーズとして一年を描き切ることです。

夏から始めたシリーズなので、冬、春、そして新たな夏までは続けていきたいと考えています。

川嶋さん自身がどんなふうに変化していくのか、それは、今の私にもまだ分かりません。

お正月の話のように、複数回で一つの話になるエピソードも、今後増えるかもしれません。

気軽に読んでいただけるシリーズですので、これからもお付き合いいただけたら、とても嬉しいです。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。