短編・連作小説 紫陽花と雨

「大雨だなぁ」

休日。食材の買い物に行こうと思っていたのに、窓の外は大雨だった。

雨粒が窓を叩き、時折強い風が吹きつける。

「こんなに降るなんて」

スマホで雨雲レーダーを見ると、どうやら一時的な雨らしい。

急ぎの用事でもない。私はソファに腰を下ろし、電子雑誌を開いた。
料理特集のページを眺めていると、美味しそうなレシピが次々と出てくる。

「あ、これ美味しそう」

材料の一覧を見ながら指で画面をなぞる。

「この調味料は使ったことないな」

買ったところで、使うのはこの料理だけかもしれない。

一人暮らしをしていると、そんなことをよく考える。
自分しか食べないから、調味料一つ買うにも少し悩む。
それでも、今度作ってみようかなと思いながらレシピを保存した。

しばらく雑誌を読んでいるうちに、雨音が少し静かになった気がした。

顔を上げて窓を見る。
さっきまでの大雨が嘘みたいに、小雨へと変わっていた。

「このくらいなら大丈夫かな」

やむまで待つこともできるけれど、それでは今日の買い物が面倒になってしまいそうだ。

私は立ち上がり、軽く支度をしてスーパーへ向かった。
傘を差して歩いていると、いつもの道沿いに咲く紫陽花が目に入った。

毎年この時期になると咲く、見慣れた紫陽花だ。

今日も綺麗だなと思いながら通り過ぎようとして、ふと足を止めた。
葉の上に、小さな水滴がいくつも乗っていた。

「そっか」

当たり前の景色のはずなのに、傘を差しながら見る紫陽花が、私にはとても綺麗に映った。

晴れた日に見かけることが多かったからだろうか。
葉の上で揺れる水滴は、小さなガラス玉みたいに光っていた。

私は傘を肩で支えながらスマホを取り出し、その景色を写真に収めた。
画面の中に映った紫陽花は、いつもより少しだけ瑞々しく見えた。

「綺麗」

思わず声が漏れる。

大雨だったら、きっと足早に通り過ぎていただろう。
でも、この小雨だったから気づけた景色があった。

ほんの少しだけ、気持ちが明るくなる。
私はスマホをしまい、紫陽花をもう一度見上げた。

さて、スーパーへ行こう。

そんなことを思いながら、私は再び歩き出した。


あとがき

雨の日は少し気分が沈みがちですが、普段見慣れている景色の中にも、その日だからこそ気づけるものがあるのかもしれません。

今回の紫陽花のお話は、晴れた日には気づかなかった小さな発見でした。
かたつむりなども、そうかもしれませんね。

嫌いな雨の日でも、ふと足を止めて周りを見てみる。
そうしたら、意外といいことが見つかるかもしれません。
そんな小さな発見を、これからも大切にしていきたいと思います。

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