いつものように一通り家事を終えての午前中。
今日は駅の反対側にある郵便局へ向かう。
線路沿いの道をゆっくりと歩いていた。
「あれ、こんなところにコインランドリーあったっけ?」
古いアパートの窓辺に飾られた植木鉢や、角にある小さなパン屋から漂う香ばしい匂い。
ここのパン屋も最近行ってなかったな。
そういえば最近、駅の反対側までは足を伸ばしていなかった気がする。
郵便局での用事を済ませ、せっかくだし、ちょっとぶらっとしようかなと思った。
来た道とは別で少し寄り道をする。
ふと足が止まった。
そこには、真新しい「ガチャガチャ専門店」が店を構えていた。壁一面に整然と並んだ、色とりどりのカプセルが入った機械たち。
(最近、本当に増えたよなぁ……)
見かけてもなるべくスルーしてたけど、今日はちょっと気になる。
近づくと欲しくなっちゃうから、なるべく近づかないようにしてたんだけど今日はいいか。 と自分の中で言い訳をする。
私は店内に一歩を踏み出した。
明るめの照明に照らされた店内。店内に人は数人しかいなかった。
まあ、平日だしね。
彼女は一人、静かに列を見て回る。その時、目に止まったガチャがあった。
『レトロ喫茶コレクション』 ガチャの写真が目にとまる。
透き通るような緑色のメロンソーダ。
昔ながらの、少し重厚なガラスの器に乗った、てっぺんに真っ赤なさくらんぼが乗ったプリン。
そして、琥珀色の飲み物が入ったレトロなグラス。
「可愛い……」
隣のガチャには 『懐かしの駄菓子シリーズ』に『薬品チャーム』など。
「あ、このお菓子、昔よく食べたっけ……」 「この薬、CMあったな」など。
気がつくと、私はバッグの小銭入れから百円玉を取り出していた。
(一回だけ…。一番気になるメロンソーダが出たら、すぐに帰ろう)
そう自分に言い聞かせて。
チャリン。 硬貨が機械に吸い込まれる音。 レバーを回す。 カチ、カチ、カチ……。 重みのある感触が指先に伝わり、コロン、とカプセルが転がり落ちてきた。
中身はプリンだった。
(ああ、これも可愛いけれど……)
そう思うと、もう一度だけ、という声が頭の中で響く。
二回目、今度はレトログラス。 三回目、再びプリン。
(被っちゃった……)と思わず苦笑い。
別のにしよう。100円が足りなくなり両替をする。次はあのお菓子にしようかな。 結局、私は合計五回、ガチャを回した。
手に入ったものは、レトロ喫茶のプリン2個、レトログラス1個、紅茶缶、そして昔のお菓子。
カプセルは返却し、手元にある5つの商品を鞄にしまった。
さて、スーパーに寄って。あ、あとさっきのパン屋さんにも寄ろう。
と先程のパン屋さんへ向かう。
店内に入っただけでいい香りがする。何を買うか迷ったが、ベーコンとバジルのパニーニと季節限定のイチゴデニッシュを購入した。その後はスーパーへ。
家に帰り、玄関の鍵を閉める。 いつもの静かな、自分の部屋。 食品などを冷蔵庫に入れた後、テーブルに向かい鞄を漁る。
被った「プリン」のキーホルダーをどうしようかと考え、ふと思いつく。そうだ、玄関の鍵につけよう。 ちょうど古くなってたし。
そして残りの四つはテレビの横にある棚を、軽く除菌シートで周りを拭き並べてみた。
プリン、紅茶缶、そして昔懐かしい駄菓子のパッケージ。 殺風景だったテレビ周りが少し華やかに見えた。
「ふふ……可愛い」
独り言だったけれど、それは確かに、心の底から溢れた笑みだった。
誰に見せるわけでもない。 ただ、自分が「好きだ」と思ったものを、並べただけ。
でも少し嬉しい。
明日からはまた、いつもの日常が始まる。
けれど、明日からは鍵を開けるたびにプリンが揺れ、テレビをつけるたびに小さな喫茶店が目に入る。 なんとなく今日、ガチャガチャを回して良かったかもと思った。
また時々、駅の反対側も行こうかな。
「よし。ご飯食べよう」
さっきパン屋で買ったパンを取りに私はキッチンへと向かった。
あとがき
意外と最寄り駅の反対側って行くこと少ないかもと思い、このお話を書きました。そしてガチャガチャ。最近は本当に増えて、つい回したくなってしまいます。皆さんがどんなふうに回したものを使っているのか少し気になります。
川嶋さんもなんとなく、また近くを通ったら、ガチャを回してしまうんだろうなと思いました。

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