夕方になり、店内が少し落ち着いた頃、店長が口を開いた。
「前にも話したけど、来週の土曜日は花火大会があるから店は夕方で閉めるよ」
「花火大会なのに閉めるんですか?」と思わず首を傾げる。
売り上げになりそうな気がしたからだ。
杉山さんが答える。
「そう、最近は閉めることにしたんです。花火大会の日は人通りはあるけど、買っていくお客さんは少ないし。大会前に買取をお願いされても、お客さんが帰りに忘れちゃうことがあって。トラブルの元になるくらいなら閉めちゃった方がいいんですよ」
「へぇ……なるほど」
中村さんも「そうなんですね」と眼鏡を押し上げながらうなずいていた。
すると店長が笑いながら言った。
「でもさ、その分、仕事終わったら花火大会に行けるんだぞ?」
「うーん、そう言われても……」私は苦笑する。
「人混みが苦手なんですよね、私」
「わかります。花火見るなら、家に帰ってゲームしたいです」中村さんも同意してくれる。
「俺も疲れに行くのはちょっとな」杉山さんも肩をすくめた。
「ここはインドアスタッフしかいないのか!」と店長が冗談めかして声を上げる。
思わず少し笑ってしまった。
「花火はきれいだし、見たい気持ちはあるんですけどね。帰りのことを考えると……」私は言葉を濁す。
「川嶋さんは去年は休みだったっけ?」
「はい、休みでしたけど行きませんでした」
その言葉をきっかけに、ふと子どもの頃の記憶がよみがえる。
浴衣姿の人であふれる駅前、屋台の明かり、夜空いっぱいに広がる大きな花。
あの頃はただ「きれい!」と純粋に楽しめた。
今は、帰りの混雑や体力のことを考えてしまう自分がいる。
「まあ、当日になって気が向いたら行けばいいさ」
「せっかくなら水谷さんにも聞いてみて、みんなで行くか!」
と店長が豪快に笑う。
「考えておきます」
そう答えると、杉山さんも中村さんもどこか迷っているような表情をしていた。
あとがき
花火大会は夏の風物詩ですが、人によっては楽しみでもあり、少し構えてしまうイベントでもありますよね。
土日勤務の人なら、なおさら体力や帰りの混雑を考えてしまうもの。
子どもの頃はただ「きれい!」と純粋に楽しめたけれど、大人になるといろんなことが頭をよぎります。
それでも誰かに誘われると「どうしようかな」とつい迷ってしまう。
その時間さえも、夏の花火の楽しみ方のひとつなのかもしれません。

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